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- 2026/01/22(木) 07:05:27|
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*ルーファス×ブレイク
『其処』は誰も知らない・居ない・来ない場所
『其処』にはたったのふたりぼっち
【パンドラの箱】5―The finale―
通された客間で、差し出された紅茶に砂糖を入れ混ぜる。
漂う甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「すまなかったな」
おもむろに口を開いたのは友人の方だった。何を謝るのかと考え、直ぐにそれは先程まで不在だった事を言っているのだと気がついた。
「レイムさんが気にする事じゃありませんよ」
どうせ自分が訪ねてくる事を見越して使いに出したのだろう。
(…目的は定かでは有りませんケド)
現にその家主は今此処には居ない。自らもてなすと言って屋敷へ招いたきり、姿を消している。
「変態な主人だと苦労しますネェ」
「否定はしないが、そう言う人間が複数だと尚の事な」
「へえ、誰の事です?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ」
言われた通りに礼服の胸に手を当てると、彼は吹き出して笑った。
午後4時。
夕時の近い空は時間の割に暗く、木々が大きく傾いでいた。部屋の窓がカタカタと音を立てごうという風の音が室内まで聞えている。
「荒れそうですし、そろそろお暇しましょうか」
「そうだな…馬車が動けなくなる前に帰った方が良いだろう」
開いた懐中時計を胸元にしまい立ち上がった。
「紅茶、ご馳走様でした」
門まで見送ろうと言う友人をにこやかに制し、扉を閉める。外の風音が強くなった気がした。出来るだけ自然な動作で手すりを掴み階段を降りる。段差が解らない訳ではないが、ここで転びでもしたら笑いごとではない。最後の段差を降り、そこから直進し入口を目指す。
「もう帰るのか?」
「……」
もう少しで扉に手を掛けれたのだが、仕方なく声のする方へ顔を上げた。
「今頃何です?鬱陶しい」
「外は荒れておるぞ。馬車馬とて厳しかろう」
確かに雨音も混じり始めた外は、出歩くには危険だと思われる。かと言ってこの男の居る屋敷にこれ以上いるのは願い下げだ。取手に手を掛け開けてみる。案の定、一瞬にして強風と共に煽られた雨が降りつけ濡れた。
「…みたいですね」
「―我と居るのがそんなに嫌か」
「それは、薬を盛って犯してきた本人ですからね」
通された部屋の中、甘んじて受け取ったタオルで髪を拭きながら答える。部屋は彼の執務室らしかった。書庫と見紛う程の本がある。
「さぞや悪夢に苦しんでいるであろう汝への贈り物じゃて」
「良く眠れる様にと?流石侯爵殿の悪趣味さは他の追随を許しませんね」
椅子に座る彼の顔を見もせず話し、髪を拭いていたタオルを畳んで机に置く。濡れた髪はいずれ乾くだろうが湿った服には少々眉を寄せた。
「バスルームを使え。その間暖炉の火にでも当てておけば乾くじゃろ」
「は?」
彼は手にした書物を眺めている。親切心で言っているのか。だが性格上俄かには信じがたい。
「どうせ暫く外はこのままじゃ。別に襲ったりはせん」
「…代わりに何を着ろと」
「レイムにでも借りればよかろう」
さっさと行けとでも言う様に視線を送って来るので致し方なくその場を後にする。呆れられるかと思ったが、逆に友人は自分が室内にいた事に安堵した様だった。 綺麗に畳まれたシャツとズボンを渡された後、執務のある彼とは別れた。十分過ぎる広さの浴室に足を踏み入れると、温かい空気に何処かほっとする。適当に身体を洗い湯の張ったバスに身体を沈め、手に掬った湯で目を洗ってみた。別に見える様になる事を期待する訳ではないが何となくだ。瞬きをしてもやはり景色は変わらない。はーっと息をついて縁に背をもたれた。
「…何なんでしょうね」
流石に変態と言われるだけあるのか。全く読めない相手を読もうとするのはやはり不毛な事かと諦めを感じ始めていた。のぼせる前に湯からあがり、借りた服を着る。やはり彼のサイズでは大きかったが文句など有るはずもなく、先の部屋へ戻った。
「――お湯をどうも」
「何じゃ、随分早いの」
彼は相変わらず本を読んでいた。
しかし早いと言う割には彼の机の上の書物は山の様になっている。そこから目を離す気は無いようなので、暖炉の前に掛けていた上着を触ってみた。まだ若干湿っぽい。仕方なく暖炉の前の長椅子に腰かけた。
「何です?」
首筋に生温かい吐息を感じ、手で払う。気色悪いと言っても離れないのでその頭をぐいぐいと押すが、やはり離れない。
「…暇人ですね」
「汝が最初からそうだと言っておるじゃろ」
(…いつの会話ですか全く)
内心で文句を垂れている間にも背後から回された手がシャツのボタンを外していく。その隙間からは胸の刻印のある白い肌が見えていた。
「襲わないんじゃ、なかったんですか?」
「あれは風呂での話じゃて」
納得いくはずもない言い訳だ。だが、やはり抵抗するのが何故か億劫だった。
「湯からあがった所だろうに、随分冷たいの」
「老人なんで保温が効かないんデス」
彼は椅子の背から此方へ回り込みゆっくりと押し倒してきた。
「ちょ、此処で最後までヤる気じゃないでしょうね」
「ベッドならいいのか?」
「そうは言ってません」
「どちらにせよ、嵐が去るのは夜明けじゃろう」
だから付き合えと言うのか。覆いかぶさる彼の髪が頬に当たって鬱陶しい。
「余りしつこいとこのうざい髪を食いちぎりますよ」
目の前の髪を引っ張り言い放つ。その顔は一瞬目を丸くし、直ぐに嗤った。
「やりたければ、好きにすると良い―」
押しつけられた唇が重なる。両手で顎を固定されながら逃れるのは難しかった。舐められた唇のぬめりが気持ち悪い。固定する力が弱まると直ぐ顔を背けたが、今度は自分の濡れた髪が貼り付く。
(…ちゃんと乾かせば良かったですネ)
彼は目の前になった首筋から頸骨を舌でなぞり吸ってきた。
「ほう、まだ残っておったか」
「?……ッ」
前回のキスマークの事だろうかとそちらに気を取られていると、不意に受けた胸への刺激に声が漏れそうになった。手で口を押さえて何とかしのぐ。薄っぺらい胸を掌が這う様に動き上下の行き帰を繰り返した。認めたくは無いが、身体の芯が熱いのは風呂のせいではないだろう。
「声を出したければ出せ。どうせ外には聞こえん」
「…だれ、が…」
前回とは違い至って正常な理性がある。この男の下で女の様に喘ぐ自分の姿など想像しただけで鳥肌ものだった。無遠慮な手は腹を伝って下肢に触れ、足の筋肉が緊張したのを実感する。やはり意地でも帰っていれば良かったのかもしれないが後の祭りだ。
「ふ、…ぁ…!」
性器が握り込まれた瞬間、思わず口を塞ぐ手の人差し指を噛んだ。
「おい、肉が抉れるぞ」
それを咎める声がしたが止める様子は無い。口に広がる僅かな鉄の味は理性の最後の砦の様な気がした。ジッパーの下げられる音が妙に卑猥に聞こえる。直接手で触れられると、口からは熱い息が漏れた。上下に抜く動きは徐々に速度を速めて行き、足が痙攣を起こし出す。行き場のない手は知らぬうちに相手の腕を掴んでいる。粘着質な音が必要以上に聞こえ出した時視界は白一色となった。
「―――!」
悲鳴の様な声を上げて、果てる。力の抜けた身体はクッションに沈んだ。
「もう乾いたのではないか?」
「……はい?」
突然の言葉に意識が覚醒する。彼は自分の上から降り、濡れた手をティッシュで拭いた。
「返す服がそれではまずいじゃろう」
確かに汚れた服を返すつもりは無いが問題はそこでは無い。
「何じゃ、最後までやって欲しかったか?」
「まさか。希望が叶って驚いただけですヨ」
身体を起こし身につけている物を脱いだ。
乾いていた自分の服を身に纏いタイを締めていると、背後から耳元に囁かれた。
「物足りなければ何時でも付き合ってやるぞ」
「生憎、此方から願い下げですよ」
皮肉の応酬を最後に、汚れた服を洗いに行く為その部屋をあとにした。
「ザクス」
外がすっかり明るさを取り戻した頃、客間から出ると友人に出くわした。朝早いというのに、流石きっちりと既に仕事をしている様子だ。丁度服を返しに行くつもりだったのでそのまま礼を言って手渡す。彼はその服を見て、少し意外そうな顔をした。
(…おや)
「何だ使わなかったのか?」
「イエ、思ったより早く乾いたので着替えて洗ったんですヨ」
そう言うと納得した様子で、ありがとうと彼は言った。
「その指はどうした」
「?…あぁ、」
右手の人差し指に、赤く血の滲んだミミズ腫れの様な痕がある。
昨夜自分で噛んでしまったところだ。
「何か、ガーゼでも貼るか?」
「いえいえ。これぐらい平気です」
自らに噛みつく事はよくある事ですので、と言うと彼は小首を傾げた。
(これは、僅かですが見えてますね)
「…まぁ、またゆっくり会おう」
「ええ、貴方となら喜んで」
微笑む彼に別れを告げ戸を閉めた。風は弱まったが、枝の折れた木々が昨夜の荒れ具合を物語っている。見れば道端に昨夜の強風で飛んできたのか、少女らしき人形が転がっていた。
「おやおや、君は何処から来たんです?」
拾い上げた人形は水を含んでやや重かった。本来可愛らしい花柄のドレスを着ていたのだろうが、今や黒ずんで見る影もない。その首や手足には切れた細い糸の様なものが付いていた。もしかしたら彼女は本来マリオネットだったのかも知れない。何か放っておく気になれず、持ち帰ることにした。
「私が綺麗にして差し上げましょう」
再び糸に繋がれる事の無い様に。
私の世界の回復と、貴女の自由を祝う為に。
【パンドラの箱】―END―