*レイム×ブレイク
*大学生パロディ・3年と4年くらい(雑)
黒いシャツ。黒いズボン。黒いブーツ。
今日は、雨。
【相合傘】
バタンとクローゼットを閉じ、手にした服をベッドへ放った。
「…今日は雨か」
ベッドで寝ていた恋人がもそもそと起き上がる。眠そうに目を擦りながら彼は眼鏡を掛けた。何も着ていない。
「貴方は何色?」
「じゃあ、白」
「ん」
並んだ2つ目のクローゼットを開けて白いシャツと紺のジーンズを渡した。始めはルームシェアだったこの部屋も、付き合い始めてからプライベート感は薄れていく一方だ。幼馴染は恋人になり、同棲と言われてしまえば否定できない。いそいそと着替え始める姿を見ながら自分も袖に手を通した。
「腰は?」
「多少痛みますが…」
「今日は午後からだろう。まだ休めばいいじゃないか」
ハイソックスを履いてズボンの裾をしまい、ロングブーツの紐を締めていた手が止まった。今はまだ午前8時。通学には電車で20分。腰に回された手がぐいぐいとベッドへ引き込もうとしていた。シャツが皺になりそうだ。
「こら、離しなさい。紐が結べないでしょう」
「…お前髪伸びたな」
「ほんの少しです」
「何でそんな急ぐんだ」
「知っていましたかレイム。筋肉痛は動いて直すんですよ」
「嘘じゃないけど嘘だろそれ」
ぎゅうぎゅうと腰を締めていた力がついに身体をベッドへ引き倒した。ぼふっとクッションに沈んだ頭上に影が重なる。短いブラウンの髪が良く似合う白い顔が近づいて、キスをした。
「おはよう」
「はいはい、おはようございます」
これがやりたかったのかと苦笑を零しながらその髪をわしゃわしゃと撫でまわした。
暫し猫でも構っている気分に浸り、ぱっと手を離した。呆けた様子の男はさて置き、半袖の黒シャツを着直してブーツの紐を結ぶ。
「随分踵が高いな。女物か?」
「ヒールと言ってください…不本意ですが」
「何でまた」
「君がバカみたいにデカいからでしょう」
女物でも履ける足が憎い。しかし似合ってしまうのだから大した文句も言えない。せめて店員に女性用ですよの一言でもかけてもらいたかった。
「まぁ冗談ですけど」
デスクに置いてあったカバンを取り、カツカツと軽い音を鳴らしながら、お先に、と部屋を出た。
初夏のじめじめとした空気の中をゆったり歩く。
部屋に置いて来た彼はどうしているだろうか。いつもより高い目線は、それでも彼に遠く及ばないがなかなか気分は良かった。昨日よりも住宅街の中にある垣の上の紫陽花が全体を見る事が出来る。すれ違う人の多くは、主に女性は足元を、男性は顔を見た後に足元を見て行った。
「御機嫌ようブレイク」
「これはこれは、ご機嫌麗しゅう。シャロン」
駅前のバス停近くに少女がいた。白い傘をさし、長いブロンドを上品なハーフアップにした如何にもなご令嬢はプリーツの入ったブラウンのスカートをふわりと揺らしてにこりと微笑んだ。大学の後輩であり、彼女もまた幼馴染だ。
「今日はまた随分と素敵な格好ね」
「皮肉ですか?」
「いいえ、本音ですわ。ドレスを着せたくなるくらい」
「…勘弁してください」
「これは冗談よ」
「黒なら目立ちにくいと思ったんですけどね…」
彼女は目を細めて笑った。
「それよりもあなた傘は?」
「…オヤ」
小雨だからいいと思ったのだろうか。それとも何も考えずに出てきてしまったのだろうか。ただ呆けていたことは間違いない。折りたたみも持っていなかった。傘に入れという彼女の申し出を、もう濡れているからと断り、記憶に残るかも危うい言葉を交わしながら二人で電車に揺られた。
「水も滴るいい男?」
「湿った程度ですよ」
髪を掻き上げる姿を見て彼女は嬉しそうに微笑んだ。
空がそのまま地面に落ちるのではないかと思うほどに重たげな灰色をしている。
大学のラウンジに着いた時、ポケットの中の携帯が震えた。
『あ、今駅なんだがお前今どこにいる?』
「シャロンとラウンジに居ますよ」
『あと30分でそっちに行くから』
「はいはい」
彼との通話は基本的に要件のみだ。ものの数秒で終わった会話を見ていたシャロンが含み笑いで眺めていた。
「いい感じね」
「…まぁ」
「羨ましいですわー」
「君こそ恋人は?同級のオズ君とかいい雰囲気じゃないですか」
一瞬固まって大きな目を更にぱっちり開けた彼女は、次の瞬間ぼっと真赤な顔になった。
「い、いやですわ。オズ様とはそんな…」
「そんな?」
「それに、私は」
「私は?」
しどろもどろに視線を彷徨わせ、彼女は唐突に席を立った。
「れ、レポートを提出してきます!」
あっと言う間に小さくなってしまった後ろ姿を見送りくすっと笑った。同居人が来るまで一人で時間を潰す事になったが仕方が無い。
(女性は可愛い、と思う)
小さくて、柔らかくて、華やかで、とても癒される。男所帯ではこうはいかない。
(…世間体、結婚、子ども、…あとは別に…)
5本の指はそれ以上折れなかった。たった此れだけの壁が妙に重たい。
「子どもなんて、別にいいんですけどネー」
「なんだ、欲しいのか?」
危うく椅子から落ちかけて振り返ると濡れた傘をくるくると巻きながら歩いてくるデカい男がいた。
「…どこから聞いてたんです」
「聞いてないが何やら指を折ってるのは見えたな」
「…要らないデスよ」
彼は椅子をひいて隣に座った。前の授業が終わったのか、人が流れる様に出て来た。ざわつき始めた広間は少し声が聞き取り辛くなる。騒がしいのは好きではないが今は素直に助かったと思った。
「女性になりたいのか」
「そんな事は言って無いでしょう…!」
少し声が大きくなった。これでは肯定しているようなものだ。
「悪い。短絡的過ぎたな」
謝る必要のない彼が謝った。
何も言えなくなり、じっと自分の拳を見つめながら強くなって来た雨音に耳を澄ませた。そしてそう言えば傘を持ってきていなかったなと他人事のように思った。
「似合うから気にしなかったが、髪とか靴とか、そうかと思ったんだ」
「…合ってはいませんけど、多分間違ってもいません」
ぼそりと出た一言は明快ではないものの、今は本当に此れ以上は言えなかった。無意識ならば、説明のしようがない。雨はどんどん酷くなっていく。
「帰るか」
「…は?」
席を立った彼が唐突にサボりを申し出た。
「今まで殆んど欠席してないから平気だろ」
そういう問題かというのは彼にとって問題ではないらしい。普通に駄目じゃないのかと思いつつ彼の珍しい行動に半ば引きずられながらキャンパスを後にした。
「ほら」
青色の傘を差した彼は入れと言う様に傘をこちらに傾けた。
男二人でなど女性にネタにされそうだが、濡れるのも嫌なので甘んじて入れてもらった。憮然とした顔で隣に行くと彼は口元を緩ませた。
「周りが気になるか?」
「別に…関係ありませんよ」
「そうだな」
苦笑された。
そう言わせるのが目的だったと気づいても今更だ。ざあざあと雨音以外は静かな帰路をゆっくり辿る。
「そのヒールは何センチあるんだ?」
「5cmくらいですかね」
いつもより近い肩と目線。男としてのプライドはやや満足気な感じだが、思ったほど嬉しくはない。
「今なら君を押し倒せる気がします」
「…勘弁してくれ」
「冗談ですよ」
彼を愛していてもそういう愛したいではない。愛されたいとしても、女性になる必要はない。そう思うと、今まで何を後ろめたく思っていたのか分からなくなった。
「これは何方かに差し上げましょうかね」
「サイズの合う人いるか?」
「その辺に居るでしょう。元々『女物』ですし」
そんなに回数を履いていないから大丈夫だろう。自慢じゃないが、多分自分が履いた事を嫌がる女性は少ないと思われた。
「レイム、君の散髪の腕は信用しても大丈夫ですか?」
「まぁ…人並に、不器用ではないと思うぞ」
「じゃあ帰ったら少し切ってください」
夏も近い季節。
明日はもう少し明るい服を着ようか、そう考えながら彼の腕に手をままわした。
【相合傘】
ふたりの帰路はひとつ。
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- 2012/07/10(火) 23:59:00|
- レイブレ|
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