*レイム×ブレイク
*ブレイク昏睡
「死ね」と言って相手が本当に死んでしまったらどうしようか。
横になって沈黙を続けるままの人間に向かってそう投げつけたなら、自分に跳ね返ってきて胸に突き刺さるかも知れない。痛みで死んでしまうかも知れない。だからと言って「生きろ」というのも違う。死にたがっている相手ではないのだから。彼
への言葉はいつも矛盾している。
【あいことば】
昔は今より本気の喧嘩が多かった。
今が遠慮しているという訳ではない。遠慮はしないが、相手の本心が見えているから爆発に至らないというだけである。10年で随分大人になったと思う今日この頃だ。
「早く起きろよザクス」
馬鹿とは言うが死ねとは言わない。この男相手では冗談にならないからだ。
苦しんでいる訳でも無く、汗もかかず呼吸も静かで一瞬死んでしまったのかと思うほどに沈黙する彼の傍らにいる。手を握ったり前髪に触れたりを繰り返し繰り返し。今ではすっかり生活の一部だ。
水を溜めた器に布を浸し、濡らした布をぐっと絞った。
静かすぎる部屋の中ではささやかな音も随分大袈裟に聞こえてしまっていた。静かな空間は好きだが静かすぎるのは不安を煽り過ぎていけない。傍に付き添いたい筈のレインズワースのお嬢様も今はいない。気丈というよりは見ている方が辛いのだろう。閉じられた目を見るといつも不安に苛まれた。この目が開かなくなれば、消えるのは彼の視界にいる自分だけではない。
もし彼が死んだら自分は大人しく埋葬される姿を見守れるだろうか。
縁起でもない話だが避けられる話でもなく、遠い未来の話かと言えばそうでもないのは確かだった。口の中の渇きはいつでも潤せるが胸の内は同じようにはいかない。
「帰りが遅過ぎると、またシャロン様に怒鳴られるぞ」
自分を含め周囲の人間が落胆する視力の低下を本人は悲観していない。
それを「罰だ」と言って安堵したように、喜んで現状を受け入れているのだ。かつての自傷行為もこれと同じ意味だったのだろう。だとすると、もし彼があの性格のままであったなら、それを止めるべきではなかったということになる。
人は忘れたい時何も残さない。
思い出す様な因子があってはいけないからだ。恋人との別れが辛ければ贈り物は捨てられるかも知れない。所謂トラウマの出来ごとは記憶に埋もれさせるかもしれない。
しかし彼は傷を抉りむしろ深くした。
その事実に満足していたからだ。彼はたまたま掘り当てた場所から水が出て溺れたのではなく、水を探して掘り進めていた。傷が治るのは周囲の自己満足の愛情表現と同じ意味だった。癒えてしまえばまた不安に苛まれてしまうのだ。だから自ら溺れた。
「このまま逝くのが望みか?」
果物ナイフを手に取り、鋭利な刃をじっと見つめる。
ひょっとしたら自分は平和でないこの状態を喜んでいるのかも知れなかった。身体に「何か」を刻みつけたらそれは彼を理解することに繋がるだろうか。
「…お前はどう思う?」
冷たい感触が肌に触れる。
「……」
微かな吐息に腕が止まり、紅い瞳と視線が合う。
「…呼ばれた、気がしましたので」
「お前、迷惑な性格の上にナルシストだったのか」
薄く口元を緩ませた彼がシーツの上に片手を出す。ほっそりとした、しかし剣を握り皮の厚くなった手の平がゆっくりとナイフを持つ手に重なった。
「お待たせしました」
「待てる時間はとっくに…」
重ねられた手が自分の手からナイフを奪って行った。
「…さっさと死ね、この馬鹿」
「えぇ、もう少し後でね」
また矛盾した。
そう考えた思考を、落ちたナイフの音があっさりと遮った。
【あいことば】
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- 2012/09/19(水) 22:20:49|
- レイブレ|
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