*レイム×ブレイク
*4月1日に便乗したようなしてないような
最期の時までに、あの人の泣き顔を。
【ゼロの嘘】
人は一生のうち、何度泣いているのだろうか。
私も彼も、お互い長い付き合いの中でそんな姿は見たことが無い。喜びや痛み、快楽的なものを含めるならば話は別だが、それ以外ならば恐らくゼロだ。
桜の咲き始めた、雨の降る日。
ざぁざぁと静かに降り続けるのを横目に見ながら本部内を資料を抱えつつ闊歩する。目の回る忙しさに泣きたいなぁ等と思いながら向った先は視力が幾ばくかになった同僚の居る資料閲覧室だった。
「あぁ、やっと着いた…」
「お疲れ様デス」
隅の席にもたれ掛かっている彼を見てやれやれと資料を机に降ろした。痛む腰を抑えて背筋を伸ばせば「おっさん臭い」と言われる。
「お前も身体が軋むほどの事務仕事をしてみろ」
「私実戦向きなので」
「そもそも事務仕事に期待はしてないとしても」
「…しないんですか」
「しないさ」
「はぁ」
項垂れた彼は机に突っ伏して目線だけをこちらに寄こした。見えているのかおぼろげなのか分からない。
「見えてますよ、何となく」
「そうか」
「はっきり見えたらと思うと泣きそうですが」
彼が泣く。
「泣いたらいいじゃないか」
彼と向かいの席に座り、読んで聞かせる仕事内容の書かれた紙を手に取った。起き上がった彼は白髪をがりがりと手でかいて笑った。呆れてもふざけてもいない、少し困ったような、心底ため息をついた時に出るような静かな笑みだった。
「泣いて、どうします」
「どうもしない」
「じゃあ意味がないでしょう」
「状況は変わらないだろうな。でも、お前が変わる」
「貴方は?」
「…変わる、かも?」
「一心同体?」
「そう言っていいなら」
「ダメな筈がないでしょう」
ふふっと笑い立ち上がった彼に頭をぐしゃぐしゃとかき回された。
やめろと言いながらその手を取って顔を寄せる。物音のしない部屋の中で鼻先が触れ、彼の睫が震えているのが見えた。目は閉じられていない。
「していいか?」
「駄目です」
「いつもしてるのに?」
「ダメです」
「わかった」
「すみません」
こつんと軽く額を当てて薄い肩を抱いた。
途端、泣いてしまいそうな幸福感に満たされる。知り合ってから10年。その間でお互いのことをよく知り、よく理解した。だからこそ踏み込めない事もある。踏み込んで欲しいけど踏み込んで欲しくない。そんな矛盾を理解してしまうのは、素晴らしいことで、寂しいことだった。
「花の香りがしますね」
「桜だな」
「美しいですか?」
「あぁ」
「今日は雨ですね」
「あぁ」
「散ってしまいそうですか?」
「少しな」
「よかった」
全部じゃなくて、と彼は言った。
身体を離して椅子に座り、持っていた資料に目を通した。向かいに彼も座ったのを確認して内容を読み上げる。これからの雑務やら責任のある任務やら。これまで彼が一人でしていたことを自分がする。相槌を打ちながら真面目に聞いていた彼がふと、目を閉じた。眠くなってしまったのかと思ったがそれは違った。向かい合った彼は赤い目の周りをうっすらと赤く腫らしていた。普段の何倍も頼り気のない、強くて弱い彼に、口の中が乾いてゆく気がした。
〔彼はなぜ泣かない、泣けない〕
しばし黙り、書類を置いた。胸に圧し掛かる静けさに、少しだけ零す。
「なぁザクス」
「はい」
「一緒に逝こうか」
たった一滴だけ、彼の頬を伝うものが見えたような気がした。
【ゼロの嘘】
嘘だけど、本当の言葉を
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- 2012/04/01(日) 03:33:19|
- レイブレ|
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