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- 2026/01/22(木) 06:57:56|
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*ルーファス×ブレイク
【パンドラの箱】4―develop―
白い髪から滴る雫をバスタオルで拭き取る。
何やら得体の知れぬ倦怠感に、思わずため息が漏れた。
「…この場合、得体は知れてるんでしょうかネ」
誰も聞いてやしないのに声に出してしまった。
再び漏れそうになる溜息を飲み込み、シャツを羽織った身体をベッドに投げ出した。そうして天井を見上げた視界に一束の書類が映る。
「あー…」
サブリエに関する調査書だ。友人に見せねばならない。
朝が来た、らしい。
「……?」
目前に広がる世界は俄かに明るかった。
およそ朝であろう事は予想出来るが、如何せんはっきりと視えない。寝起きで霞んでいるのかとも思ったがそうではなさそうだ。
(…水銀)
先日強制された『戯事』を思い出す。
嫌な予感がするも、ごく微量と言った男の言葉を信じるより他に無かった。症状は一時的な物なのかも知れない。日常生活的には問題なくこなせる自身があるものの、周囲に勘付かれでもすると厄介だ。
「…仕方ないですね」
起こした身体に衣服を纏い、机に置かれた書類を手に取った。
「……」
「何じゃその不満そうな顔は」
「貴方に用じゃありません」
「…仮にも屋敷の主に向かって言う言葉か」
「では、レイムさんはいらっしゃいますかバルマ公?」
この敷地に入ったが運のつきか。屋敷内に入る前に当主に出会ってしまった。予測された最悪の事態を起こすとは、今日の自分は相当運が無いらしい。
「生憎使いに出しておってな。今はおらぬ」
「そうですか。では、帰ります」
「帰るのか?我が自らもてなしてやらんでもないぞ」
「反吐が出るほど結構」
背を向けかけたその肩に細長い指が絡んだ。
「――昨夜はよく眠れたか?」
耳元で囁かれた言葉がぞくりと身体を震わせた。掴む指先が襟に掛かりうなじの辺りをなぞってゆく。
「…男の夜の心配なんて、貴方も暇ですね」
「瞳孔が少々濁っておるな。視えておるのか?」
玩具を買い与えられた子供の様に、浮き立った声が癪に障る。
「お陰さまで…見えてやしませんよ」
語尾が吐き捨てる様な声音になった。ふと自分はそれなりにいら立っているらしいと他人事のように思う。背後に貼りつかれ手を掬われた。ダンスの誘いの様だ。
(さしずめワタシは女役ですか)
真白い手袋の中にルーファスの指が入り込む。その手はブレイクの指をさすり、性感帯を探る様に弄ってきた。後ろに引かれて揺らいだ身体が相手の腕に納まる。
「いやに大人しいの」
「別に、面倒なだけですヨ」
驚くほどに無表情な声だった。遂に自分も人形に成り下がったか。
「―――!」
そんな考えをしている間に、首筋に生温かい物が伝った。
「…何してるんです、この変態侯爵」
「言ってやらねば解らぬ歳ではなかろう」
すぐ傍で嗤う声が鼓膜に響く。見えない分、身体を這う手がより生々しく想像で構成された。風に揺れた紅い長髪が肌を擽り気持ちが悪い。
「…青姦でもする気ですか」
「汝にしては随分下品な言葉を使うのう」
いつの間にか広げられた襟元から鎖骨が覗いていた。
「まぁ、らしいと言えばそうかも知れんな」
うなじを舐める舌は徐々に無遠慮になっていく。緩んだリボンタイに繊手がかかり、するりと引き抜かれようとした時屋敷の前に一台の馬車が到着した。身体を拘束していた腕が離れ、咄嗟に襟を正す。
「…帰ったか」
「只今戻りました、バルマ公」
如何にも誠実と言う言葉の似合う男が一人降り立ち礼をした。
「レイム、汝に客人じゃ」
顔を上げた彼と、バツの悪い自分の視線が合った。見えてはいないが雰囲気で分かる。
「…ザクス?」
何故と訊こうとする彼を遮ってルーファスは口の端を引き上げ愛用の扇を広げた。
「立ち話など無粋じゃて、客人は持成してやらねばなるまい?」
見えない光景に、警鐘を鳴らす音だけが響いていた。
【パンドラの箱】4―denelop―
一歩踏み出したその足は、闇に囚われ真っ逆さま
*ルーファス×ブレイク
『其処』は誰も知らない・居ない・来ない場所
『其処』にはたったのふたりぼっち
【パンドラの箱】5―The finale―
通された客間で、差し出された紅茶に砂糖を入れ混ぜる。
漂う甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「すまなかったな」
おもむろに口を開いたのは友人の方だった。何を謝るのかと考え、直ぐにそれは先程まで不在だった事を言っているのだと気がついた。
「レイムさんが気にする事じゃありませんよ」
どうせ自分が訪ねてくる事を見越して使いに出したのだろう。
(…目的は定かでは有りませんケド)
現にその家主は今此処には居ない。自らもてなすと言って屋敷へ招いたきり、姿を消している。
「変態な主人だと苦労しますネェ」
「否定はしないが、そう言う人間が複数だと尚の事な」
「へえ、誰の事です?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ」
言われた通りに礼服の胸に手を当てると、彼は吹き出して笑った。
午後4時。
夕時の近い空は時間の割に暗く、木々が大きく傾いでいた。部屋の窓がカタカタと音を立てごうという風の音が室内まで聞えている。
「荒れそうですし、そろそろお暇しましょうか」
「そうだな…馬車が動けなくなる前に帰った方が良いだろう」
開いた懐中時計を胸元にしまい立ち上がった。
「紅茶、ご馳走様でした」
門まで見送ろうと言う友人をにこやかに制し、扉を閉める。外の風音が強くなった気がした。出来るだけ自然な動作で手すりを掴み階段を降りる。段差が解らない訳ではないが、ここで転びでもしたら笑いごとではない。最後の段差を降り、そこから直進し入口を目指す。
「もう帰るのか?」
「……」
もう少しで扉に手を掛けれたのだが、仕方なく声のする方へ顔を上げた。
「今頃何です?鬱陶しい」
「外は荒れておるぞ。馬車馬とて厳しかろう」
確かに雨音も混じり始めた外は、出歩くには危険だと思われる。かと言ってこの男の居る屋敷にこれ以上いるのは願い下げだ。取手に手を掛け開けてみる。案の定、一瞬にして強風と共に煽られた雨が降りつけ濡れた。
「…みたいですね」
「―我と居るのがそんなに嫌か」
「それは、薬を盛って犯してきた本人ですからね」
通された部屋の中、甘んじて受け取ったタオルで髪を拭きながら答える。部屋は彼の執務室らしかった。書庫と見紛う程の本がある。
「さぞや悪夢に苦しんでいるであろう汝への贈り物じゃて」
「良く眠れる様にと?流石侯爵殿の悪趣味さは他の追随を許しませんね」
椅子に座る彼の顔を見もせず話し、髪を拭いていたタオルを畳んで机に置く。濡れた髪はいずれ乾くだろうが湿った服には少々眉を寄せた。
「バスルームを使え。その間暖炉の火にでも当てておけば乾くじゃろ」
「は?」
彼は手にした書物を眺めている。親切心で言っているのか。だが性格上俄かには信じがたい。
「どうせ暫く外はこのままじゃ。別に襲ったりはせん」
「…代わりに何を着ろと」
「レイムにでも借りればよかろう」
さっさと行けとでも言う様に視線を送って来るので致し方なくその場を後にする。呆れられるかと思ったが、逆に友人は自分が室内にいた事に安堵した様だった。 綺麗に畳まれたシャツとズボンを渡された後、執務のある彼とは別れた。十分過ぎる広さの浴室に足を踏み入れると、温かい空気に何処かほっとする。適当に身体を洗い湯の張ったバスに身体を沈め、手に掬った湯で目を洗ってみた。別に見える様になる事を期待する訳ではないが何となくだ。瞬きをしてもやはり景色は変わらない。はーっと息をついて縁に背をもたれた。
「…何なんでしょうね」
流石に変態と言われるだけあるのか。全く読めない相手を読もうとするのはやはり不毛な事かと諦めを感じ始めていた。のぼせる前に湯からあがり、借りた服を着る。やはり彼のサイズでは大きかったが文句など有るはずもなく、先の部屋へ戻った。
「――お湯をどうも」
「何じゃ、随分早いの」
彼は相変わらず本を読んでいた。
しかし早いと言う割には彼の机の上の書物は山の様になっている。そこから目を離す気は無いようなので、暖炉の前に掛けていた上着を触ってみた。まだ若干湿っぽい。仕方なく暖炉の前の長椅子に腰かけた。
「何です?」
首筋に生温かい吐息を感じ、手で払う。気色悪いと言っても離れないのでその頭をぐいぐいと押すが、やはり離れない。
「…暇人ですね」
「汝が最初からそうだと言っておるじゃろ」
(…いつの会話ですか全く)
内心で文句を垂れている間にも背後から回された手がシャツのボタンを外していく。その隙間からは胸の刻印のある白い肌が見えていた。
「襲わないんじゃ、なかったんですか?」
「あれは風呂での話じゃて」
納得いくはずもない言い訳だ。だが、やはり抵抗するのが何故か億劫だった。
「湯からあがった所だろうに、随分冷たいの」
「老人なんで保温が効かないんデス」
彼は椅子の背から此方へ回り込みゆっくりと押し倒してきた。
「ちょ、此処で最後までヤる気じゃないでしょうね」
「ベッドならいいのか?」
「そうは言ってません」
「どちらにせよ、嵐が去るのは夜明けじゃろう」
だから付き合えと言うのか。覆いかぶさる彼の髪が頬に当たって鬱陶しい。
「余りしつこいとこのうざい髪を食いちぎりますよ」
目の前の髪を引っ張り言い放つ。その顔は一瞬目を丸くし、直ぐに嗤った。
「やりたければ、好きにすると良い―」
押しつけられた唇が重なる。両手で顎を固定されながら逃れるのは難しかった。舐められた唇のぬめりが気持ち悪い。固定する力が弱まると直ぐ顔を背けたが、今度は自分の濡れた髪が貼り付く。
(…ちゃんと乾かせば良かったですネ)
彼は目の前になった首筋から頸骨を舌でなぞり吸ってきた。
「ほう、まだ残っておったか」
「?……ッ」
前回のキスマークの事だろうかとそちらに気を取られていると、不意に受けた胸への刺激に声が漏れそうになった。手で口を押さえて何とかしのぐ。薄っぺらい胸を掌が這う様に動き上下の行き帰を繰り返した。認めたくは無いが、身体の芯が熱いのは風呂のせいではないだろう。
「声を出したければ出せ。どうせ外には聞こえん」
「…だれ、が…」
前回とは違い至って正常な理性がある。この男の下で女の様に喘ぐ自分の姿など想像しただけで鳥肌ものだった。無遠慮な手は腹を伝って下肢に触れ、足の筋肉が緊張したのを実感する。やはり意地でも帰っていれば良かったのかもしれないが後の祭りだ。
「ふ、…ぁ…!」
性器が握り込まれた瞬間、思わず口を塞ぐ手の人差し指を噛んだ。
「おい、肉が抉れるぞ」
それを咎める声がしたが止める様子は無い。口に広がる僅かな鉄の味は理性の最後の砦の様な気がした。ジッパーの下げられる音が妙に卑猥に聞こえる。直接手で触れられると、口からは熱い息が漏れた。上下に抜く動きは徐々に速度を速めて行き、足が痙攣を起こし出す。行き場のない手は知らぬうちに相手の腕を掴んでいる。粘着質な音が必要以上に聞こえ出した時視界は白一色となった。
「―――!」
悲鳴の様な声を上げて、果てる。力の抜けた身体はクッションに沈んだ。
「もう乾いたのではないか?」
「……はい?」
突然の言葉に意識が覚醒する。彼は自分の上から降り、濡れた手をティッシュで拭いた。
「返す服がそれではまずいじゃろう」
確かに汚れた服を返すつもりは無いが問題はそこでは無い。
「何じゃ、最後までやって欲しかったか?」
「まさか。希望が叶って驚いただけですヨ」
身体を起こし身につけている物を脱いだ。
乾いていた自分の服を身に纏いタイを締めていると、背後から耳元に囁かれた。
「物足りなければ何時でも付き合ってやるぞ」
「生憎、此方から願い下げですよ」
皮肉の応酬を最後に、汚れた服を洗いに行く為その部屋をあとにした。
「ザクス」
外がすっかり明るさを取り戻した頃、客間から出ると友人に出くわした。朝早いというのに、流石きっちりと既に仕事をしている様子だ。丁度服を返しに行くつもりだったのでそのまま礼を言って手渡す。彼はその服を見て、少し意外そうな顔をした。
(…おや)
「何だ使わなかったのか?」
「イエ、思ったより早く乾いたので着替えて洗ったんですヨ」
そう言うと納得した様子で、ありがとうと彼は言った。
「その指はどうした」
「?…あぁ、」
右手の人差し指に、赤く血の滲んだミミズ腫れの様な痕がある。
昨夜自分で噛んでしまったところだ。
「何か、ガーゼでも貼るか?」
「いえいえ。これぐらい平気です」
自らに噛みつく事はよくある事ですので、と言うと彼は小首を傾げた。
(これは、僅かですが見えてますね)
「…まぁ、またゆっくり会おう」
「ええ、貴方となら喜んで」
微笑む彼に別れを告げ戸を閉めた。風は弱まったが、枝の折れた木々が昨夜の荒れ具合を物語っている。見れば道端に昨夜の強風で飛んできたのか、少女らしき人形が転がっていた。
「おやおや、君は何処から来たんです?」
拾い上げた人形は水を含んでやや重かった。本来可愛らしい花柄のドレスを着ていたのだろうが、今や黒ずんで見る影もない。その首や手足には切れた細い糸の様なものが付いていた。もしかしたら彼女は本来マリオネットだったのかも知れない。何か放っておく気になれず、持ち帰ることにした。
「私が綺麗にして差し上げましょう」
再び糸に繋がれる事の無い様に。
私の世界の回復と、貴女の自由を祝う為に。
【パンドラの箱】―END―
*ブレイク×ギルバート
*オズ生還前
欲しいのは主と慕うあの人
求めるのは道化師と呼ばれるその人
全てが曖昧な境界線
【Absurdity】
ザァザァと落ち、流れる水を朧な意識で眺める。シャワーの水に混じるのは詳しい素性も知れぬ男の欲。
「……」
鏡に映る身体には所々鬱血した跡が残っていた。
「彼」は濡れて張り付いた黒髪をかきあげ、
そこに新たな跡を見つけてひとつ溜息をついた。
「お帰りなさい、レイヴン」
部屋に戻ると、一体何時来たのか白髪のピエロがにこりと笑い彼を出迎えた。
「…何しに来た」
「オヤ、冷たいデスネー。折角愛しい君に会いに来たのに」
ブレイク悲しい!と肩に乗った不気味な人形に彼は話しかける。
「気色の悪い事を言うな、ピエロめ」
何度したやり取りか知れないが同じ感想を抱かずにはいられない。こちらの機嫌が悪いのを見計らったように現れては調子のいい事を言いかき乱して帰っていくのだ。
「失礼ですネ。道化師とは人に夢を見せる尊い存在ですヨ?」
「残念だが訂正する。道化師は人を惑わす存在だ」
ソファに沈みむくれる彼にぴしゃりと跳ね返す。
「いやぁ、実に機嫌が悪いですネェ今日の君は」
ブレイクは肩を震わして笑った。残念ながら彼の言う事は当たっている。冷静に饒舌な時、確かに自分は機嫌が悪い。そんな自分に対し彼は酷く機嫌が良いようだった。
「それで?」
座った彼に腕を引かれる。
「そんな不機嫌な鴉は何を御所望なんだい?」
覗き込む紅い瞳へ、口の端を引き上げ言葉を紡いだ。
「…『夢』を」
部屋の明かりを消し深くソファに座るブレイクに歩み寄る。
伸ばされた腕をすり抜けその首に抱きついた。意外だという雰囲気が伝わってくるが気になどしない。まだ湿った状態の黒髪を男の肌に擦り寄せた。縋りつくようにしてブレイクの服を握りしめる。
「…鴉は肉食でしたっけ」
「?」
彼がそう呟いたかと思うと、腰を引かれ膝の上に座らされた。
『今宵鴉は道化師に喰われ夢を見る―』
「……ッ」
鼓膜に囁き声を感じた瞬間、ブレイクは鎖骨の辺りまで開いていたシャツの隙間に顔を埋め微かに上気した肌に舌を這わせた。肌に吐息を感じる距離で更に言葉は続く。
『それは都の垢に塗れた黒の世界ではなく、甘美に満ちた世界で』
薄く笑うブレイクと視線が合う。
「『例えばそれは』・・・こんな色だったりしませんカ?」
紅い目を指し彼は笑う。
「は、馬鹿を言うな」
「…夢が欲しいならもう少し素直になったらどうデス」
そう呟くブレイクのスカーフを強く引いた。揺らいだ彼の白髪が振れ、目蓋にかかる。
「それはお前が『見せる』んだろう?」
目の前に来た紅を金の瞳が捉えた。
「現を意識させるな」
音にした言葉は思いの外苦しげなものだった。ブレイクの首に絡めた腕に力を込め、その乾いた唇に自ら己のそれを重ね舌を絡めて互いの酸素を奪い合う。
「…、今夜は随分煽ってくれますネェ鴉?」
「いい加減名前で呼べ、ブレイク」
「…鴉に夢を見させなくていいんデスカ?」
「鴉は俺の名前じゃない」
ナルホド。とでも言いたげな顔で、彼は納得したのかようやくその名を口にした。
「では、ギルバート」
「何だ」
「君は、どうして欲しいのですか」
薄い唇に細く長い指が添えられ、道化師が誘惑を囁く。
「抱いてくれ」
「仰せのままに、ギルバート様」
彼が恭しくこの手を取る。鼓膜に響く言葉を感じながら、静かに目を閉じた。
夢を抱き続ける為に、夢を見させて
【Absurdity】
*ブレイク×ギルバート
*XLII 妄想話
喉が痛くて
目蓋が熱くて
肺が焼ける様だった
【哀咽】
迂闊迂闊迂闊。
その一言に占拠された視界から目を逸らす事が叶わない。
『見たいものなら他に幾らでも有るというのに』
ただ黒い視界に浮かぶ朧なイメージと文字を見つめるだけ。そうしてベッドに埋もれてから何時間が経つのか。今や時間さえ分からない。過去に見たものなら想像が出来るが、未だそれが無いものでは叶う筈もなく。
(そう、例えば今私の下にいる男の顔とか)
そっと確かめるように手を添えた彼の頬に口付ける。擽ったそうに身を捩るその身体を指先で追った。
「あっ、ぅ・・ブレイク・・・」
背が高く、だがそれ程肉付きの無い肢体が小刻みに震えている。彼を抱くのはこれが初めてだった。彼は自分が倒れた事に有りもしない責任を感じてここへ顔を出して来た。始めはその湿度に呆れたが、余りに心配してくる彼が逆に不憫になるという始末。
(やはり自分は彼に甘い)
内心でため息交じりの微笑を零したが、それはふと自嘲に変わった。
「違いますネ」
「何が…だ?」
零れた一言に不思議そうに見上げて来た彼の目蓋へキスを落とした。
(甘いのは私に、ですね)
コレは無意識のうちに自分へ与えた慰めであり、彼への愛すら言い訳かもしれない。そう考えてやはり「彼」は不憫なのだと思い直した。
シャツの釦を外していく手を彼が見つめていた。不自然な動きをしないよう注意する。手を差し入れ熱い肌に触れると、其処へ己の額から汗の雫が流れ落ちた。白い髪が汗に濡れて額に張り付き、下の男もまた同じように黒髪を濡らしていた。熱い吐息とベッドの軋む音だけが感覚を刺激している。目から入る情報が少ないせいか、それは大袈裟なほど卑猥に届いた。
「どう、した?」
「どうした、とは?」
涙の膜が張っているのか彼の瞳が微弱に光って見える。胸の奥がざわりと蠢くが、頬に触れて来た手によってその波は静かに引いて行った。
「何デス?」
「何かお前、哀しそうな顔してるな…」
(あぁ・・・何とも情けないですね)
やはり慰められているのは自分の方だった。此方から誘い、抱いていると言うのに自分は己の事で一杯一杯だったのだ。心の深層にある傷みが外へ漏れ出していたという失態。目に見えない筈が露呈していた。今までには無かった経験だ。
「…ブレイク?」
「全く、馬鹿のくせに敏感というか」
「なっ!」
「黙って」
心外だと眉根をつり上げた彼の手に指を絡め、その呼吸を奪った。彼の身体は一瞬の震えの後大人しくシーツに沈んで行く。離した唇からは銀の糸が二人を繋いで直ぐに切れ落ちた。
「私は君に、溺れていたいのです」
囁いた言葉に彼の身体は熱を増すが、自分でもこの時の表情には自身が無い。彼を安心させるというより、気休め程度にしかならないだろうとは思っていたが、本当に笑う事が出来なかった。返って逆効果だっただろう。しかし此ればかりは言葉にしてはいけない事だ。
(君が、見えなくて寂しいなど)
どれだけ愛していようとも、愛しているからこそ言ってはいけない。言えない言葉。
(そう想う事が相手を傷つける事も、解っているのですけどね)
やはり答えを求めるべき問題ではないのかも知れない。自分の歪んだ笑みを見た彼が、これもまた複雑な笑みを浮かべていた。
「やっぱり、哀しそうな顔だな」
彼はそう言って静かに笑った。
(一体どうしてくれるんでしょうね)
喉の奥がひりひりと痛い。目蓋の裏が熱い。肺が掻きむしりたい程熱い。長年経験することを止めてしまっていた感覚に困惑が隠せなかった。
「生意気な事、言うんじゃありませんよ」
俯き、交わる行為の速度を速めた。大きく跳ねた身体と耳に届く熱っぽい吐息が心を満たす。自分だけが彼を満たす事が出来る。そして彼もまた同様に。
再び元の静けさを取り戻した室内で、先程彼が言った言葉を反芻していた。恐らく自覚していないだろうが、あの場面で限りなく優しい言葉を。この事実を隠す自信はあるものの、今は実感する事で手いっぱいな様だ。知られたい訳ではないのに、感情のやり場に困る。シーツを握り込んだ指先が白くなるのにも気づかない。
(―泣くまい)
泣くまいと、そう心の内で言い聞かせ、目を閉じた。
【哀咽】