*レイブレ
*B side 暗め注意
【生け花】
花を摘む。食事をする。足を一歩、踏み出す。
人が何かの命を奪うのは日常的な動作の一つ。
可憐な少女が花を摘むのも、断頭台で生きた人間に刃を降ろすのも同じ事。食事をするのも、家畜を育てるのも同じこと。
「悪いことじゃない」
生きるためには必要なことだし、それらを愛しているが故のことである。更に言えば摂取しなければ愛でる事も虐げることも出来ない。
「死を与えるとはつまり、生を受け取ることです」
綺麗に長さを揃えられた百合を抱き、ブレイクはうっとりと目を閉じた。
手の平についた血も、口の周りについて乾いた血も、もはやそれが赤いと確認することは出来ない。手に残る肉を切った感触には慣れたものだ。違和感も罪悪感も感じない。「あれら」は決してあの花のように美しくはなかったが、今手にしているものはもしかしたら綺麗なのかも知れない。
「今戻りましたよ」
軽やかな足音と衣擦れの音が同時に近づき、目の前に来た瞬間急停止する。一瞬怯んだかのような躊躇いは自分の外見が余程酷いことになっている証拠だ。日常とはいえ女性にはあまりに殺伐として心穏やかではない。
「おかえりなさい。…貴方の血では、ないですね?」
「えぇ、恐らくは」
しかし女性の精神とは恐れ入るほどに強い。
ニコリと微笑み、あまり人目に付かぬ内に部屋へ引いた。でもそれは言い訳で、部屋に居る「彼」に早く会いたかった。
カツカツカツカツ。早く早く早く。
「ただいま戻りましたよ」
ガチャン。とやや大きめの音を立てて扉の内側へ入る。
「気分はどうです?そう、それはいい」
色の変わってしまった上着を脱いで浴室に投げ込んだ。
襟から抜いたネクタイを無造作に放り、手の平のパリパリに乾いてしまった血を洗面台で洗い流して、踊るようなステップで部屋を歩きまわる。
「今日の仕事は滞りなく。褒めて下さっていいですよ」
軽口を叩きながらの挨拶も程ほどに、花瓶の百合が若干枯れかけていることに気づき部屋を出た。通りがかったメイドに花はあるかと尋ねる。
「あの、…また百合でしょうか?」
「出来たら。そうですね」
少々表情を曇らせながら承知した彼女から百合の束を受け取った。
「綺麗ですね。彼も喜ぶ」
腕の中で香る花に顔を埋めながら軽快な足取りで部屋に戻った。
花瓶の花を抜き、新しい花を入れる。枯れた花は捨て、まだ綺麗なものだけアルコールに漬けた。後で香水にする。
「きっとお嬢様に合うでしょう。それとも君がつけますか?」
小瓶の香りを嗅ぎながらベッドへ歩み寄る。
ベッドには男が一人眠っている。短い栗色の髪とピアスが「彼」である証拠。あの上背の高さは横になった今では感じることが出来ない。穏やかに眠るようなその顔はやや青白かった。
「綺麗でしょう。ずっと同じ花という訳にはいきませんけど」
返事もなにもない。一方的に話しているだけなのに、ブレイクの中では会話が成り立っているようだ。その顔は横になる男よりもいっそう白かった。
「少し痩せましたか?貴方の手はもう少し大きかった」
自分のものより大きい、いかにも男性らしい手を取り頬を寄せる。温もりはない。代わりに自分の頬に温かいものが流れて落ちた。
「…おや。おかしいですね、君がいるのに、おかしなことだ」
テーブルに幾つも並んだ香水の瓶から一つを手に取り、こちらも細い指先でくるくると瓶の蓋を開けた。それを傾け手の甲に一滴落とす。途端、ふわりと甘い香りが広がった。
「うん、良い香りですよ」
瓶を置き、目を閉じたままの男の頬にそっと唇を寄せた。
「君が好きで、目の前にいて、それがどうして寂しいのでしょうね」
花を摘むように、食事をするように、足を一歩踏み出しては命を奪う。
そうして彼は、再び百合を抱いて眠りに落ちる。
【生け花】end
※もしもレイムさんが目覚めなかったら、の妄想。
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- 2012/02/04(土) 05:39:58|
- レイブレ|
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