*レイム×ブレイク前提ルーファス×ブレイク
*ルーファス×レイム表現有り
友人の為と偽り自分の為に主人に抱かれる。
それは己を抱く主人の為にあらず、友人へ恩を売る自身への株作り。
【飾り物のカナリア】
古い書物の匂い漂う屋敷の一室で、ふうっと息を吹きかけ燭台の火を消す。
襟を寛げ、さしたる色気もない鎖骨を晒し主人の前に身を伸した。
「正気か?」
「えぇ、どうぞ」
レイムが長年使えてきた主人は苦笑しながらベッドへ上がった。首筋を伝う舌、胸を這う手、男に愛撫をされるのは初めてだがやはり気持ちが悪い。好意があれば別だろうが主人には敬意しか持っていない。だからこれは、単なる性欲処理と思う他ない。
「汝を鳴かせる時がくるとは思いもせなんだな」
「貴方がザークシーズに興味を持っているのは存じておりますが」
生ぬるい感触に顔を背けて眉を顰めた。
「彼を抱かれるのは少々困るので。友人として」
「ほう、友人として」
分かりやすく取って付けた様な言葉だ。
また小さく笑う主人を前に、どんどん肌が晒されていった。内職ばかりで焼けていない白い肌。ここら辺は友人と似ているかもしれない。
「それも素か。気味が悪いほどに邪念がないな汝は」
「長い使用人生活で初めて褒めて頂いた気がしますね」
赤毛の主人は声を上げて笑った。
しかし飾りの関係は所詮飾り。
本命を無傷でいさせる事はやはり叶わない。
「彼を呼ぶのですか」
「そう今言ったじゃろう」
「…承知しました」
「奴に話がある」
話とは言葉の話なのだろうか。
そうでは無いと何かが警鐘を鳴らしているような気がした。呼ばない方がいい。しかし、呼ばねばならない。自分はただの使用人であって、彼とはただの友人であるだけだから。
「それで、観劇ですカ」
「すまんな。ルーファス様が話があると言うんだ」
襟元をきっちりと締めた黒の外套を纏い迎えに行くと、白い友人は明らかに面倒そうな顔をして出てきた。
「君も苦労人なことで」
「…全くだ」
恐らく彼の考えも及ばぬ部分に至るまで。
ザクスの目はもう大分見えなくなっているようだが彼は難なく馬車に乗り込んだ。後から続いて自分も乗る。狭い部屋のような空間の中で私たちは向き合って座った。
「ねぇレイムさん、飴とか持ってます?」
「…これでいいか?」
「…何で持ってるんです」
「お前がそういう事言うからだろう」
彼は手渡した飴玉を不信な顔で受け取り、満足げな顔でそれをほおばった。子連れの親の気分だ。
「…バルマ公の話とは何でしょうねぇ」
「さぁ、あの方の考える事は未だに分からん」
「左様で」
「事の良し悪しくらいだな」
「おや。…では今回は?」
「悪い方だ。きっと」
「…エー」
良いことなど今まで一度も無かったのだから彼も承知の上だ。しかし彼の悪い事と今回自分の測り知る悪いことは、恐らく内容が大きく違うだろう。上辺と本音を乗せた馬車は間もなくオペラ劇場へ到着した。
「ザクス、こっちだ」
正面の一般席ではなく3階層のバルコニーへ案内する。
柔らかなクッションの座席に主の姿はなく、一人の夫人を乗せた車椅子の側に影がひとつあった。
「…今度こそ女公爵様に殺されますヨ」
「なんじゃ、来て早々ご挨拶じゃな帽子屋」
影が振り向くと車椅子の婦人は姿を消した。呆れた目で見るザークシーズに含みを持った笑みでバルマ公は応じる。我が主人ながら腹の読めない少々不気味な人間だ。
「レイム、ご苦労じゃったな」
「いえ」
一礼して踵を返す。役目は此処まで。後は普段の職務に戻るだけだ。
「レイムさん」
「なんだ?」
「また後で」
「…あぁ」
退室間際に声を掛けてきた彼もまた意味深な視線で私を見る。
彼はこの後のことを悟っているのか。そう考えられるという事は、そうなのだろう。自分に認識させるために、彼はわざと悟られるように振舞っている。バルコニーから少し離れた扉の外で、私は暫し聞き耳を立てた。近づきすぎると悟られるので若干の距離を取ったが、やはり言葉が聞き取れない。ニュアンス的には過去の話か、またはアヴィスに関わる話なのだろう。感情の起伏があるでもなく、淡々とした言葉の音が聞こえる。思ったような方向へは進まなかったのか。先日の夜の事もあって立ち呆ける内に鈍痛を感じ始めた。もう立ち去ろうか、そう考え始めた時聞こえていた「音」が大きくブレた。
カタンと椅子が揺れる音。
そして何やら軽く揉めるような声が聞こえる。思わず彼等の元へ足が進みかけたが、理性で踏ん張った。ここで出て行かないのは主人との暗黙の了解だ。所詮公爵という身分に自分が立てつくことは不可能である。廊下の壁に背を預け、背後から響き伝わる情景をただただ身に受けた。
「此処に居たんですか」
「…あぁ」
出てきた友人に顔を背け応える。普段と変わらない様子だが、到着した時と襟の形が違う。
「貴方の言ったとおり、悪いほうでしたネ」
「解ってて止めなかった事を怒るか?」
「いいえ。私も予想はしてたので」
「では、わざと行った?」
「そう。そうすれば、君が慰めてくれるでしょう?」
「…淫乱」
「ですかね」
真っ白な細い指で自分の唇をなぞり、事も無げに言い放った彼は高揚している。男の癖に男を誘う術をいったい何処で身に付けてしまったのか。細められた切れ長の瞳が誘うようにこちらを見た。
「お前が強請るのなら、喜んで慰めてやろう。仕方なく」
「そう、仕方の無いことです」
含み笑う男を連れて、劇場を後にした。
要求通り彼を「慰め」、屋敷へ送り届け戻ると敬愛する主人が相変わらず書物を漁っていた。
「ご苦労じゃったの」
「いえ、いつもの事ですので」
「お主も趣味が悪くなったのう」
楽しそうに笑うその人にやはり気付かれていたかと思う。しかし全くもって自分の周りは似たような人間ばかりである。
「汝も抱いたか?」
「…えぇ」
「傑作じゃな」
扇を片手に大笑いする主人はやはり高貴で傲慢だ。何がそれ程楽しいのだろう。
「他の男に盗られて黙っていられるとは流石じゃの」
「貴方は主人ですので」
外套を脱ぎながらあくまで慇懃に答えた。ルーファスはにやりと笑い、引き出した書物を手に長いすに腰掛けた。
「…その傷はどうなさいました」
手の甲に引っ掻き傷のようなものがある。指摘に眉を潜めた彼はその傷を見て「ああ」と漏らした。
「可愛くない奴じゃ。思い切り爪を立ておった」
「抵抗されましたか」
「汝はそんなことなかろう」
「えぇ、まぁ」
「汝も可愛くないな」
文句を言いつつ彼は楽しそうだった。
ついと伸びた手が私の頬を捉える。幾分も下にある目線まで引かれ、キスをされた。真意は分からない。所詮彼以外の存在は駒でしかないのだ。良いように遊んで面白がっているだけだろう。
「いい面になった」
「ありがとうございます」
どんな面なのだろう。ふっと鼻で笑われ、退室の許可を得ると自分の部屋へ向かった。何ということは無い、仕事が待っているだけだ。
手の甲で唇を拭う。
あの人がいくら引っ掻き回したところで、彼自身は何も手に入れられていない。
上辺だけだ。核心はいつも他にある。彼の手ではなく、駒自身の手に。
「…さて」
コーヒーを淹れデスクに戻る。
居ない間に増えた羊皮紙を前に、思わずため息を漏らした。
踊らされる事に何の抵抗も感じない。
飾り物は何時でも簡単に鳴けるのだ。
end
- 2011/12/08(木) 15:52:51|
- ルーブレ|
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