オズ×ブレイク
【隙間】
淡い茜色に染まり始めたのはパンドラ本部。
慌しい日中とは違い、緩やかに落ち着いたこの時間は心地よい。今この敷地内において最も重要な人物とされる少年は庭へと飛び出した。
「んー、疲れたー」
両腕を大きく伸ばしながら一日を振り返ってやれやれと息をつく。
「もうお疲れですか?少々早いのではありませんか」
「へ、」
男の声に緩々と力の抜け始めていた筋肉がぎゅっと締まる。背後から何かが風切る音を聞き思わず飛びのいた。ひゅっという音が耳に聞こえたかと思うと次の瞬間にはザクっと重いものが綺麗に刈られた芝に突き刺さっている。
「げ…ちょ、やだな殺す気?ブレイク」
「勿論、実戦を想定してるので。無様にでも避けれた事は褒めて差し上げましょう」
双眸を閉じたままゆったりとした足取りでやってきたブレイクは口元だけでにこりと笑った。こうしていれば随分と品の良い青年だが、その実かなりえげつない性格の男である。オズとて他人のことは言えないが。
「…手解きを、お願いします」
「よろしい」
芝に立った剣を抜きすぐさま切り替え構えたオズに彼は満足げに笑い、自分の仕込み刃を抜いた。
「私は怪我などしませんので、何処からでもどうぞ」
「何処からでもって言われてもなぁ」
隙などある筈もない。兎に角出来る限りの力と集中をかき集め、思い切り剣を振り上げた。
周りの静けさに反抗するように剣のぶつかり合う甲高い音が響き、時に重たいものが落ちたような鈍い音が聞こえていた。激しい動作の連続で荒くなる息がまた行動を制限する。
「だっ…!ちょ、死ぬって!!」
「殺しはしませんから安心なさい」
ぶんと振られたブレイクの腕が風を切ってオズの剣を弾いた。キンと高い音を立てて空中へ舞い上がったそれは、縦に回転しながら同時に倒れたオズの顔の真横へ突き刺さる。
「…いっ!」
「チェック、ですね」
右に自身の剣、左にブレイクの剣が顔の真横に突き刺さり青ざめる。苦笑いをしながら、降参の意を込めて両手を上げた。
「も、…無理…っ」
「若いくせに情けないな」
身体に跨り見下ろしているブレイクは目を閉じているのに愉快気だ。白い髪で影になった顔が普段より凄みを感じさせる。この雰囲気はいつか聞いた過去の彼に近い。闘いが純粋に楽しいのだろう。
「楽しそうだね…」
「そりゃそうです。血が沸き立つ」
「明解だね」
「迷えば死にますから」
ふっと笑ったブレイクがオズの上から立ち上がろうと身体を反らす。離れてしまう、そう思った時オズの手は自然と彼の袖に伸ばされた。
「…何です」
「あ、いや…うーん、何だろう」
「君が疑問では困りますよ」
「はは、ごめん」
相変わらず仰向けに倒れたままで、跨るブレイクを自分の行動に困りながら見上げた。しかし困惑の中で視界に入る白い手は明瞭だ。袖を引いた手はそのまま肌に触れた。
「ブレイクの刻印、見せてくれない?」
「なぜ」
「全く同じ?」
「…恐らくは」
刻印という言葉に空気がぴりっと張ったのが分かった。ただ苛立った訳ではないようだ。自分と同じものを持っているのに何故かという所だろうか。オズとしては同じだからこそなのだが。
「同族は今までに何度も見たでしょうに」
「皆すぐ死んじゃったよ」
はたと彼は動きを止めた。
「子供のようですネ」
「子供だもん」
にこりと笑うとため息をついたブレイクが身体をずらし、オズの横に片膝を立てて座った。
そうして襟元のボタンに手を掛ける。彼が退いたのでオズも起き上がるが、目の前で外されていくそれに心なしか落ち着かない。女性の裸を見るわけでもないのに視線を泳がせた。
「どうぞ。満足ですか?」
シャツの前を肌蹴たそこには全く焼けていない白い肌があった。
そこに良く映える刺青のよな刻印も。
「…同じだね。ありがとう」
「先行者がいてよかった?」
いつになく、嘘ではない優しい口調だ。
「うーん、ホントなら死んじゃってるんでしょ?生きてるのは嬉しいけど」
「そうだな」
今日の彼は時々話し方がブレイクではなくなる。ケビンと呼ばれた時代の彼なのだろうか。知らない人間と話しているような不思議な感覚に包まれる。
「まぁ私は本来の年齢が死んでても可笑しくない位ですけど」
「おじさんだもんね」
「ガキの言葉はほどほどに。オズ君」
苦笑しながら彼の手はボタンを閉じようと動いた。それを追ったオズの手は、今度は袖ではなくその刻印が残る肌へと伸ばされた。
暮れ始めた日の中で乾いた音が弾ける。
じわりと痛みの広がる手をオズ自身が見つめた。
「嫌だった?」
「…すみません、君に限った事ではないので気にしないで下さい」
思わず、という感じだった。
バツの悪そうな彼に対し、オズ自身は彼の目が見えていないのに流石だ等と悠長に考えていた。
「俺、ブレイク好きだよ」
「……、ガキなんざお断りですよ」
「それでも」
頬に手を触れ、首を傾げてキスをする。
本物の剣が直ぐ側にある。殺されるかも知れないなと思いながらゆっくり目を開いた。それこそ横っ面を叩かれてもおかしくなかったが、予想に反し何も無かった。目の前にいたのは困惑したように俯き指を震わす彼だった。
「ガキが、何をしてんです…」
「好きな人へのスキンシップ?」
「全く、彼といい君といい」
「彼って?」
「君もよく知る人ですよ」
光の灯らない瞳で泣きそうに笑う彼は自分の知らない彼で、その彼によく合う顔だった。
「ブレイクの弱いところ色々見たいなぁ」
「お断りです」
目の毒だからとボタンを閉じるのを手伝う。シャツの隙間から覗く時計の形をした刻印をちらりと見ながらズボンの土を払い立ち上がった。
「また相手してくれる?」
「…好きな時に呼びなさい」
「ありがと」
決して同じ傷ではないのに、彼と自分は少なからず似ている。
地面に突き刺さった剣を抜き自分を探しているであろう従者の元へ向かった。
【隙間】end
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- 2012/01/06(金) 22:51:17|
- その他CP|
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