[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
- 2026/01/22(木) 06:57:55|
- |
- トラックバック(-) |
- コメント(-)
| 12 | 2026/01 | 02 |
| S | M | T | W | T | F | S |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | ||||
| 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
| 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
| 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
*ブレイク×ギルバート
*
彼方の為に祈りましょう
【Agnus die】
シーツに投げ出された両の白い手。
触れれば冷たく、死体のようでさえある。しかしその手に自らのそれを重ねれば緩く指を絡められた。彼は確かに生きている。
「お前、その体温何とかならないのか」
「自分ではどうしようも無いですネ」
今晩はよく冷える。世間は礼拝だの何だのと忙しい日ではあるが信仰が無ければさして意味はない。ベッドには盲いた男が横たわっている。口元に薄っすらと笑みを浮かべ、意外にも今日と言う余暇をそれなりに楽しんでいるようだ。
「君は外に行かなくていいのですか?」
「オズなら他の奴らと街へ出ている」
「放っておいても?」
「心配ない」
根拠はないが確信はある。チェインとの契約者がついているのだからおおよその心配はないだろう。しかし実際の所出掛けようとは思ったのだ。だがいざとなってこの男の姿が見当たらなかった。探して見れば珍しく大人しく部屋に居た訳だ。
「寒いのは嫌デス」
という爺くさい文句を聞いて、何故だか此方まで出かける気が失せた。オズたちには上手く言ってこの男と二人で留守番となった。楽しくは無い。だが、かといって悪い気分でもなかった。
「…年取ったなお前は」
「そりゃー君に会った時から既にそうですもん」
「そうだったな」
会話としては余りに拙い。しかし先程から繋がれたままの指がその空間を穏やかにしている。窓の外は既に暗闇だ。何処までも際限がない。だが部屋の蝋の灯りで白く舞うものが微かに見えた。
「お、雪だ」
「そういえば、彼女も白い髪をしていましたネ」
「…アヴィスの意思か?」
「そう。ふーむ、『この状態』で彼女に会ったとして分かりますかねぇ」
「向こうから飛びついてくるんじゃないのか?」
「そんなキャラでしたっけね…まぁいいです」
雪と聞いて寒くなったのか彼は布団を引き上げた。暫し黙って窓の方向を見つめている、様に見えた。すると彼は小さく笑った。
「君は私の手が冷たいと言ったが、君も人のこと言えないですね」
「し、仕方ないだろう」
「…自分が温めるとか気の利いたこと言えないんですカ君は」
「……は?」
にやりと口元を上げた顔が此方を見ている。どういうことかを脳が高速で考え出し、自分だけ体温が急上昇していくのが分かった。意図せず視点がきょろきょろと彷徨い出す。分かっていてもこればかりは止めようがない。
「ふむ、私が年寄りになっても君はまだ子供でしたか」
「う、…うるさい!」
流れが自然すぎて意図も簡単にからかわれたのだと知り更に居た堪れなくなった。外見は同年代だがあくまでも彼は年長者。適わない面が多かろうが、何か一つでも上を行きたいものだと切実に思う。
「ギルバート君」
「な…何だ」
「私を温めてくれませんか?」
絶句した。というより単純に恥ずかしかったのかよく分からない。ただそれ以上に彼の表情が真面目である事に動揺していた。
「見ての通り私は殆ど君が見えない。だから、君がリードして下さい」
「な、待てそれは…」
「無理ですか?」
「………」
一応男だ(向こうもだが)。こんな事を言われてあっさり引き下がることは出来ない。意を決し、絡めていた指を一旦離してシングルベッドへと手を掛けた。
自らの衣服へと手を掛ける。彼の目の前で自ら肌を晒すのは初めてだった。どうしようもない羞恥心を抱えながら、彼には見えていないのだと脳に言い聞かせて何とか耐えた。
「何時まで照れてるつもりです」
「う、うっさい黙れ」
眼下の男がぼそりと呟いた。枕に背を預けやや身体を起こした状態ではあるものの、何もしていない事には変わりない。その胴体に跨る自分は傍から見たらどれ程の事をしているのだろうか。他に誰がいるわけでもない、気にせずともいい事が思考を離れなかった。
「大体お前、見えなくても殆ど分かるだろうが」
「そう思っていて引けないのだから君は本当に人がいいですよね」
彼の手がシャツの開いた胸元へと伸ばされた。肌に触れた指が冷たくて、一瞬びくりと震える。ガラスにでも触れるように、指先だけがすっと肌をなぞりまた落ちた。
「冷たいのが嫌ならさっさと脱ぎなさい」
僅かな畏怖と悦楽が心を満たすようだった。身体をずらしズボンを脱ぎ去る。そうした所で不意に手が引かれた。横たわっていた彼の横に並ぶように引き倒される。何事か分からずにいると唇に柔らかいものが押し当てられた。
「…ふっ、う…」
いつの間にか覆い被さるようにして彼が上にいた。白い髪が頬に触れている。その奥の紅い眼が、俄かに焦点の合致しない眼が此方を見ていた。それが全く悲しくないという事はない。しかしそれ以上にこのアルビノが綺麗だと思った。
「おま、やっぱり動けるんじゃないか…ッ」
「そりゃ動けますヨ。見えないだけですもん」
頭にきたところでどうしようもない。くいと顎を持ち上げられると間近で瞳を覗き込まれた。そうして動けないでいる内に両の足の間へ彼の手が滑り込む。
「君がもたもたしてるのがいけないんです」
「……ッ」
中心を握られ爪先まで筋肉が緊張した。膝をすり合わせるように動くと逆に掴まれ大きく押し広げられる。触れる空気の冷たさに思わず逃げ腰になった。
「許すと思います?」
「ひ、…あぁ……ッ」
腰に腕を回され引き寄せられた身体は汗ばんでいた。握られた其処も熱を帯び先走りを始めている中、朱く染まる胸の突起を親指で捏ねるように愛撫をされる。出来るだけ甘く浮いた声を出すまいときつく唇を結ぶが、それも今にも解けそうであった。
「…ぃ、……ッあ?」
下肢の間を蠢いていた指がその更に下へぬるりと滑り込んだ。指先からゆっくりと拒もうとするナカへと侵入したその異物感と痛みに眼が見開く。理性が飛びそうだった。
「は…、や…ぁ…」
「まだ…君も、痛い思いは嫌でしょう」
耳元に上の男の唇が近づき、その吐息にぞくりとする。馴染む毎に指を増やされた。暫く中を解すように指だけで乱され太ももの間が自らの欲で濡れた頃、それから漸く開放された。ぼうとした思考の中に立ち尽くしていると身体を反転させられ四つん這いの状態になる。ぼんやりとそれを認識した時には背後に熱く質量のあるものが押し当てられていた。
「力を抜きなさい鴉」
「ぇ……あ、……ッアァ!」
言葉に反応出来たのも束の間、身体を貫いたそれに膝がガクガクと振るえ崩れそうになる。慎重ささえ感じた愛撫とは打って変わり幾度と無く激しく突き立てられた。背中に彼の体温を感じ、彼の吐息を耳元に感じた。
「…ふ、……く…」
余り耳にする事のない切羽詰ったような彼の声に艶を感じ、自らも興奮するのが分かった。今の彼の顔を見たくなり、四つん這いの体勢がもどかしくなる。
「ブ、れ…く…ッ」
「何…デス?」
上手く言葉に出来ず、身体を大きく反らして彼の方を振り返った。肩口に顔を埋めていたその頬に手を触れ、自ら唇を重ねる。自分の行為に心底驚いたような顔をした彼に、此方が笑いそうになった。荒い息遣いの中でふっと空気が緩むのを感じた。
「積極的な君とは…珍しいですね…」
「別に…ッお前の…余裕のない顔を見たかっただけだ、」
「ふ…生意気です、よ」
「――ッ!」
繋がった状態のまま望みどおりに、とばかりに再び反転させられシーツに縫いとめられた。身体の中で、瞬間に奥を突かれて呻く。なかなか達する事を許されず、焦れた身体が意図せず揺れた。
「私の顔がよく見えますか?まぁ、余裕があればの話しですが」
「…ん、あ・・ぁ……ッブレ、イク…あ…」
額に張り付く髪が鬱陶しい。だが目の前で自らを突き上げ犯す男から滴る汗が、濡れた白髪が、酷く自分の欲情を煽った。今までこれ程彼を意識した事がない。自分も、彼の眼には以前からそのように映っていたのだろうか。
「考え事ですか?…余裕です、ね…っ」
臓器に響くような低音で囁かれ覚醒する。唇からは乱れた声が零れ続けていたのに、分離したように思考していた。火照った足首を掴まれ最奥を突かれる。抉るような揺さぶりに膨張し続けた悦楽が悲鳴を上げ始めた。喉を仰け反り、全身の震えに流される。
「あ…あぁ……ぃ、…ッァア!」
「―――ッ」
悲鳴にも似た嬌声が部屋に響くのと、自らの腹と中に欲が吐き出されるのを感じ、ふつと意識が途切れた。
「ギルバート君」
聞きなれた声に目蓋を瞬くとまだ薄暗い部屋が視界に入った。
「一応、礼拝にくらいは行きましょうか」
「…今から……?」
意味深な面持ちで彼は頷いた。信仰など持っていないだろうに、何故今から行くなどと言うのか。その疑問を率直にぶつければ意外にも直ぐに答えは返ってきた。
「神は人が安堵を得る為に創り出した偶像です。無力な人間より不確かで確実な存在をね。…少なくとも私はそう思い信じていない。…しかし私には時間がありません」
訊いて少々後悔した。この類の話をすれば、必ず『彼の期限』が突き付けられる。
「だから、私は『守る為に手伝ってもらう』ことにしたのですヨ」
「…何を…?」
彼は薄っすらと綺麗な笑みを浮かべ、言った。
「君の平穏を」
【Agnus die】
*オズ×ギルバート
『友情』を繋ぐ糸
『愛情』を繋ぐ糸
『理性』を繋ぐ糸
最期に残るのは
【唐草模様】
赤い絨毯に広がる花弁は紅の薔薇。
ひらめくシルクはドレスの裾で、耳に良く透る音は舞踏の曲の様だ。
「ビチャッ」
否。靴が埋もれているのは絨毯等ではなく、ましてや舞う布は華やかな衣装ではない。聴こえていた音はとても楽しめる内容ではなかった。足元に広がる血の湖と転がる肉片。断たれたそれ等の衣服が風に舞う。絶命の叫びは耳にこびり付いて離れない。
(ああ、気持ち悪い)
「―オズ!」
重力が小さな身体を押し倒そうとした時、不意に浮遊感が訪れた。懐かしい、しかし血に汚れた顔がそれは心配そうに此方を覗いている。何をそんなに心配しているのかと微笑もうとして、何も見えなくなった。
コトン。
びくりと身体が震え飛び起きた。
それに気付いた男がこれまた同じようにびくりとして此方を見た。瞬間、その顔に安堵が広がった。
「よかった。気付いたのかオズ」
彼は手にしていた(水をかえたらしい)花瓶を置いて額に触れてきた。
「…まだ駄目だな、もう少し寝ているといい」
穏やかな声に幾らか気分が楽になる。高鳴っていた鼓動が落ち着いて行くような気がした。
「ギル、」
席を立とうとした彼の名を呼ぶ。振り返ったその袖を掴み油断していた身体をベッドに引き倒した。
「――!」
あっけなく倒れた身体に身を翻して馬乗りになる。咄嗟の事にも関わらず、主に対して抵抗をしなかった事に感心しつつ鼻の先が触れあいそうな距離に顔を寄せた。みるみる内に赤くなるその顔に思わず苦笑が漏れる。
「オ、」
「うつしてやろうか?」
笑みを潜めて金色の瞳をみつめた。
垂れた前髪が彼の目蓋に触れ、彼は目を閉じた。その目蓋を舐めてやる。そこに微かにしょっぱさを感じて眉を顰めた。だが今はそれに触れず、固く閉じている唇に自分のそれを重ねた。軽く啄ばむだけでそれ以上は触れない。襟の空いた隙間から鎖骨が覗いていた。プチプチと釦を外していけば、大きな切り傷が顔を出す。
(ごめんね)
これ以上は癒えない傷跡に謝罪を込めて舌を這わせた。
「…ギル?」
両目を腕で塞ぐ彼に動きが止まった。そっとその腕を退けてやると目元を腫らした顔が現れる。
「泣いてんの?」
「……何でも、ない」
どうして明らかに嘘だと分かるにも関わらずそんな事を言うのか不思議だ。溜息を一つつき、濡れた頬にキスをする。先程と同じ塩味がした。
「じゃあ、先刻のは」
「さっき?」
「俺が起きる前」
彼は口を噤んだ。瞳の中が揺れている(ここまで解り易いのは逆に罪だろう)
「言って?」
「…お前が、」
言い辛そうだった。だが辛抱強くその先を無言で待ち、促す。
「倒れる前に、あんまり・・・綺麗に笑うから」
「――?」
「死ぬかと…思った、んだ」
成程、と思う反面で不思議でならなかった。綺麗だと死ぬのだろうか?
「ていうか、男に綺麗って」
「う、うるさい」
弱々しい声を発しながら手元のシーツを引き寄せて埋もれてしまった。
「ギールー」
呼びかけてみるが頑として出てくる気は無いらしい。無理に引き出すのを諦めた時、先程彼が持って来ていた花瓶が目に入る。ベッドから手を伸ばして小さな紫の花を一輪手に取ると、甘い香りがした。
「ねえギル」
「…?」
「綺麗な『都忘れ』だけど、今度ユリを持ってきてくれる?」
「なぜ?」
彼はシーツから怪訝そうな顔を出して此方を見た。
それを見て、今度こそ微笑んでやった。
「綺麗だから」
【アラベスク】
・都忘れ=憂いを忘れる
・百合=純潔(見舞いとしては縁起が悪い)
*オズ×ギルバート
*オズのモノローグ
知りたい?
【手記】
He exceeds time, it meets him, I exceed time, and it meets him.
What do you call without calling this a miracle?
The god might surely bind us indefinitely.
I will keep surely afflicting you to you who becomes it as for the beloved.
文字を列ねたノートを閉じる。
この世界へ戻って来てからもう随分と時間が経ったような気がしていた。一息つくとコンコンと軽いノック音がして返事をする。すると長身で黒髪の男が入ってきた。
「ギル、どうかした?」
「そろそろ紅茶でも淹れようかと思ってな」
「そう、今休憩しようと思ったとこ」
会話をしながらさり気無くノートを引き出しに仕舞う。見られて不味いものではないが、彼の性格上厄介な事になりそうだった。運ばれてきた紅茶を口に含み飲み干す。食道の中を通る温もりが、じんわりと心地よく身体に浸透していった。
「疲れたか?」
「うん、ちょっと横になろうかな」
ぼすんと身体を受け止めたベッドは柔らかく眠気を誘う。一つ息を吐き出し仰向けになる自分を、傍らに立った彼が気遣うように覗いてくる。その瞳へ口元に微笑を湛えながら見つめ返した。
Is he thinking of him as his desire of him?
Holding in high esteem?Friendship?Affection?
All differs. It is affection of love that I wants.
手を伸ばして指先で襟を引く。
誘う様な仕草と視線に彼が身を固くさせた事が分かった。戸惑い視線を泳がせるそれがもどかしく、今度は容赦なくその長身を引き倒した。
「痛ッ!」
それはこっちのセリフだとばかりにベッドが軋む。反転させた身体を羽交い締めにし呻く彼の耳元で甘く囁いた。
『Will you give all of you to me?』
表情は見えないがみるみる内に真っ赤になる首元。もう大人の癖になんて初心なんだと心の中で苦笑しながら手を離した。
「あはは!冗談だよ冗談」
「な…!か、からかうなっ」
「うんうん。ごめんね?」
顔を赤く染めたまま、捲し立て様とする彼を制してその手の甲にキスをする。自分も懲りないなと思いながら目まぐるしく顔色を変える様子を楽しげに見つめた。まだ顔の赤みも引かぬ内に部屋を去る彼の背に笑顔で送り出す。彼の性格上アレには望みが有るとも無いとも言い難かった。自分に寄り添う彼は本当に自分を見ているのだろうか。追いかけているのだろうか。
もし彼が『あの人』を追っているのだとしたら?自分の様な単なる巡り合わせではなく確かに共存していた『彼』に適う筈はない。きっと彼は曖昧な境界でゆらゆらと彷徨っている。大切な存在が近くに居るのに、目の前に居るのに分からないのだ。いや。本当は知りたくないのかもしれない。もし知ってしまったら?もしそれが望んだ形でなかったならば?自分は何処まで耐えられるか分からない。
I am weaker than he.
I am more fragile than he.Above all, I resemble him closely.
再びベッドに倒れ込み天井を見上げた。もしも彼が無意識下で自分の中に居る『誰か』を望むのなら。
『It only has to be able to disappear from this world…』
【手記】
彼が時間を越えて自分に逢い、自分が時間を越えて彼に逢う。
此れを奇跡と呼ばずに何と呼ぶ?
きっと神様はいつまでも私たちを縛るつもりなのだ。
最愛なる貴方へ。私はきっと貴方を苦しめ続けてしまうでしょう。
自分が彼を想うように彼は自分を想ってくれるのだろうか。
敬愛、友愛、親愛?どれも違う。私が欲しいのは恋愛の情なのだ。
私は「彼」より弱い。
私は「彼」より脆い。
そして何よりも、私は「彼」に酷似している。
ならばいっそこの世界から消えてしまえたらいいのに。
*ブレイク×シャロン
*ブレイク失明後
『成長』する糸
『侵食』する糸
『纏綿』する糸
知らぬ間に二人の首を締め付ける。
【唐草模様】
初夏の夕暮れ。
穏やかな風に凪いだ草木が一様に朱色に染まる。世界が黒に染まる前の、静かで何処か憂いを帯びたひと時だ。
「ブレイク!」
軽やかで、でも品のあるソプラノが耳を透る。声の先を振り返ると向かい風に髪を煽られた。
「どうかしましたかお嬢様」
「あちらに咲いた花がとても綺麗なのです」
駆け寄る少女の足は軽快だ。何の花かは分からなかったが、昨年から余程楽しみにしていたのか。今にも袖を引いて連れて行きたそうな高揚が窺えた。しっとりとした空気に夏の訪れを感じながら彼女の後を歩く。ぼやけた景色ながら、幸いにも視覚には情報が流れて来ていた。春の草花が身を顰め始め青々とした景色が増えたと思う。自分の足に踏みつけられた芝も、くしゃりという音が何処か水水しい。
「…何処まで行くんデス」
「もう少し、庭ではなく外の…空き地なのです」
あと少しがどの辺まで信用できるか危うい気がした。だがそれでもいいかと思い、引き続き後を歩く。暫く歩く内ひとつの問が脳裏に湧いて出た。
「訊いてもいいですか、お嬢様」
「何ですの?」
いそいそと歩く後ろ姿は止まらないが、構わずその背に問いかけた。
「愛する人が見えなくなってしまったら、貴女はどうしますか?」
一瞬の小さな振動をもって彼女の足は止まった。
「…どういう意味です?」
「もし不意に自分の視力を失い、愛する人が見えなくなったら何を思います?」
返事は直ぐには来なかった。背を向けたままの少女からその葛藤が窺える。
「…質問を変えましょうか」
正直自分にも答え難い問いだった。だからその質問を、自分の我儘へと訂正した。
「愛する人が自分を見れなくなってしまったら、貴女はどうしますか?」
彼女は振り返った。その顔が哀しげな気がしたのは、空気が冷えて来たからだろうか。或いは自分の顔こそが悲痛なもので彼女に映してしまっているのかもしれない。
「何故そんな事を?」
「特には…まぁ、オトメゴコロの研究とでも言っておきましょうか」
「…誰かに告白でもする気ですの?」
「さて」
誤魔化して返した事を彼女は咎めなかった。ただ一つため息をつき、まぁどうせ振られるでしょうしとさり気無く酷い事を呟いて再び思考を巡らす作業に戻った。
「もしそうなったら…悲しくて、…潰れてしまいそうでしょうね」
「……」
「…でも、多分大丈夫ですわ」
張りのある声に、何故と問いかける。
「その愛する人は「そこ」に居るのでしょう。ならばその温もりと、見えていた頃の記憶こそ重要なのではなくて?」
解りそうでわからない答えの理解に、しばし時間を要した。
「目に見えているのはあくまでイメージです。最重要事項ではありませんわ」
恐らくその言葉に確固たる根拠は無いのだろう。
「うーん違うわね…過去の思い出もいいけれど、その先もまた同じように記憶を作っていけばいいのだわ」
だが何処か誇らしげなその声に妙に納得する他なかった。
(ほんっとに、敵いませんね)
再び歩き出した彼女を追って歩き出す。しかしその直後、その背から静かな声が聞こえてきた。
「ただ、」
「ただ?」
「同じ景色を見れないというのは、やはり辛いのでしょうね」
―きっと彼女は、この目を受け入れてくれるだろう。
しかし未だ自分の心を定められぬようでは、現実に耐える彼女の姿に自分が耐えられないのではないかと思った。徐々に黒くなりつつある夕空に、よりその思いは現実味を帯びてゆく。
「着きましたわよ、ブレイク」
その足が駆けよる先は、僅かな木々があるだけの空き地だ。だがその隅。雑草に姿を隠された先にあるのは朱い花だった。
「ほら、もう百合が咲いているのですよ」
「…オヤ」
とすると、本来は白いのだろうか(種類によるだろうが)。日の沈む寸前といった時刻にその色はすっかり朱色に染まっていた。この花について語る少女は実に嬉しそうである。
「ね、綺麗でしょう?」
その言葉は本来の姿を指すのか、それとも今の「嘘」の姿を含めてか。此方を向くおぼろげな彼女の背に自分の上着を掛けてやりながら思う。きっと貴女はとても愛らしい表情で笑っているのだろうと。だから私もこう言って、笑うのです。
「ええ、とても」
【アラベスク】