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- 2026/01/22(木) 07:00:53|
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*ブレイク×シャロン
*ブレイク失明後
『成長』する糸
『侵食』する糸
『纏綿』する糸
知らぬ間に二人の首を締め付ける。
【唐草模様】
初夏の夕暮れ。
穏やかな風に凪いだ草木が一様に朱色に染まる。世界が黒に染まる前の、静かで何処か憂いを帯びたひと時だ。
「ブレイク!」
軽やかで、でも品のあるソプラノが耳を透る。声の先を振り返ると向かい風に髪を煽られた。
「どうかしましたかお嬢様」
「あちらに咲いた花がとても綺麗なのです」
駆け寄る少女の足は軽快だ。何の花かは分からなかったが、昨年から余程楽しみにしていたのか。今にも袖を引いて連れて行きたそうな高揚が窺えた。しっとりとした空気に夏の訪れを感じながら彼女の後を歩く。ぼやけた景色ながら、幸いにも視覚には情報が流れて来ていた。春の草花が身を顰め始め青々とした景色が増えたと思う。自分の足に踏みつけられた芝も、くしゃりという音が何処か水水しい。
「…何処まで行くんデス」
「もう少し、庭ではなく外の…空き地なのです」
あと少しがどの辺まで信用できるか危うい気がした。だがそれでもいいかと思い、引き続き後を歩く。暫く歩く内ひとつの問が脳裏に湧いて出た。
「訊いてもいいですか、お嬢様」
「何ですの?」
いそいそと歩く後ろ姿は止まらないが、構わずその背に問いかけた。
「愛する人が見えなくなってしまったら、貴女はどうしますか?」
一瞬の小さな振動をもって彼女の足は止まった。
「…どういう意味です?」
「もし不意に自分の視力を失い、愛する人が見えなくなったら何を思います?」
返事は直ぐには来なかった。背を向けたままの少女からその葛藤が窺える。
「…質問を変えましょうか」
正直自分にも答え難い問いだった。だからその質問を、自分の我儘へと訂正した。
「愛する人が自分を見れなくなってしまったら、貴女はどうしますか?」
彼女は振り返った。その顔が哀しげな気がしたのは、空気が冷えて来たからだろうか。或いは自分の顔こそが悲痛なもので彼女に映してしまっているのかもしれない。
「何故そんな事を?」
「特には…まぁ、オトメゴコロの研究とでも言っておきましょうか」
「…誰かに告白でもする気ですの?」
「さて」
誤魔化して返した事を彼女は咎めなかった。ただ一つため息をつき、まぁどうせ振られるでしょうしとさり気無く酷い事を呟いて再び思考を巡らす作業に戻った。
「もしそうなったら…悲しくて、…潰れてしまいそうでしょうね」
「……」
「…でも、多分大丈夫ですわ」
張りのある声に、何故と問いかける。
「その愛する人は「そこ」に居るのでしょう。ならばその温もりと、見えていた頃の記憶こそ重要なのではなくて?」
解りそうでわからない答えの理解に、しばし時間を要した。
「目に見えているのはあくまでイメージです。最重要事項ではありませんわ」
恐らくその言葉に確固たる根拠は無いのだろう。
「うーん違うわね…過去の思い出もいいけれど、その先もまた同じように記憶を作っていけばいいのだわ」
だが何処か誇らしげなその声に妙に納得する他なかった。
(ほんっとに、敵いませんね)
再び歩き出した彼女を追って歩き出す。しかしその直後、その背から静かな声が聞こえてきた。
「ただ、」
「ただ?」
「同じ景色を見れないというのは、やはり辛いのでしょうね」
―きっと彼女は、この目を受け入れてくれるだろう。
しかし未だ自分の心を定められぬようでは、現実に耐える彼女の姿に自分が耐えられないのではないかと思った。徐々に黒くなりつつある夕空に、よりその思いは現実味を帯びてゆく。
「着きましたわよ、ブレイク」
その足が駆けよる先は、僅かな木々があるだけの空き地だ。だがその隅。雑草に姿を隠された先にあるのは朱い花だった。
「ほら、もう百合が咲いているのですよ」
「…オヤ」
とすると、本来は白いのだろうか(種類によるだろうが)。日の沈む寸前といった時刻にその色はすっかり朱色に染まっていた。この花について語る少女は実に嬉しそうである。
「ね、綺麗でしょう?」
その言葉は本来の姿を指すのか、それとも今の「嘘」の姿を含めてか。此方を向くおぼろげな彼女の背に自分の上着を掛けてやりながら思う。きっと貴女はとても愛らしい表情で笑っているのだろうと。だから私もこう言って、笑うのです。
「ええ、とても」
【アラベスク】