*レイム×ブレイク
*R18(レイムさんが若干黒め)
立場のある人間になっても、所詮下の使いである事には変わりはなく。あれやこれやと合理的に雑務をこなし、あっと言う間の一日は過ぎ、一ヶ月、半年、一年と過ぎて行く。惜しむぐらい貴重な時間である事を分かっていてもそれを止める事はできる筈もない。
【黒い糸】
権力のある男は色を好む。
持て余した自尊心を見せつけ散漫したいだけの事だ。その男に同行するならば自分の身にも降りかからない筈は無い。上司・役員の傍らで会食に参加し夜の街へ出るのは何時もの事。娼館のみすぼらしいが派手で露出の多いドレスを纏った女達が一行をロビーへと案内をした。薄明かりの灯った室内は湿っぽく、香水やら酒やら、ない交ぜになった得体の知れない匂いが充満していた。
「今夜は、どうなさいますの?」
細く長い指が上品にグラスに酒を注ぐ。
男たちは当然何時もの通りとばかりそれぞれに女を指名し、奥の部屋へと消えていった。
「そちらのお兄さんは?」
「いや、私は」
「あの方々が出てくるまでお暇でしょう。お寛ぎ下さいな」
綺麗とは言い難い色の褪せた茶色の長い髪を無造作に留めた、30前後と思しき女性が膝に手を乗せた。切れ長だが、優しげに目じりの下がった瞳が目前に迫り微笑む。
「…眼鏡。取った方がいい男よ」
「貴方は…いい人でもいるのかしら?」
「…かも知れません」
「なぁに、それ」
安っぽいベッドの安っぽいシーツの上で女はくすりと笑う。全裸の身体を隠そうともせず紐を咥え髪を結い直している。自分は眼鏡を掛け直し、シャツを羽織った。
「きっと女性じゃないのね」
「…どうしてそう思いますか?」
「女は久しぶりって感じだったわ」
「経験が無い訳じゃないのですが。プロは流石ですね」
「ゲイではなさそうだけど、女なら誰でも勘付くでしょう」
ころころと笑う彼女は年齢を感じさせず、普通に可愛らしい人だと思った。
「襟のとこやったげる」
「これは別料金ですか?」
「お金は要らない。面白い話も聞けたし、可愛い子にはサービス」
それは流石に。と思っていると下着を身に付けた彼女が目の前に立ち襟にスカーフを通した。内心落ち着かなかったがするすると滑る耳に心地よい音が、普通の恋愛をしたらこんな感じなのだろうかと思わせた。
「これでよし。貴方の『いい人』によろしくね」
「彼にそう伝えましょう」
「あら認めるの?」
「…隠す事でもないので」
「ふふ、そうね。貴方、背も高くていい紳士だわ」
伸ばされた手が耳のピアスに触れる。
「ありがとう」
「羨ましいこと」
どちらが?という言葉は声にはならなかった。ひらひらと手を振る彼女に会釈をして部屋を出ようとしたが、ふと頭を過ぎることがあり振り返った。
「あの、眼鏡は外した方がいいでしょうか」
一瞬目を丸くした彼女は、笑顔でウィンクをしてみせた。
香水臭いと言われたのはその翌日。
風呂には勿論入った。それでも彼の鼻はごまかせないらしい。
「また『接待』ですカ」
「何だ。えらい不機嫌だな」
つーんとした面持ちの彼は何も言わない。だが理由は明白だ。昨晩の事が気に入らないらしい。
「お前も言ったろ。接待だ」
「仕事だから気にしちゃいけないと言う事はありません」
「女性は久しぶりだった」
「……」
グッと押し黙った。それでもこれは彼が一番知りたがっていた情報だ。
「いい女性だった。でも直ぐにばれたよ」
「何がです」
「男を抱いてるだろって。あと眼鏡は無い方がいいとさ」
「…眼鏡はステータスですよ。ある意味」
「どんな意味だ」
今までそんな言葉は聞いた事無かったが新鮮な反応ではあった。
「お前に宜しくと言っていた」
「何故私なんです」
「私の『いいひと』だからだろ」
皿に乗せられたチョコレートケーキを一口食べながら昨晩の事を回想する。
小さくて軽い身体と乳房が、抱いているのは女性であると改めて認識させた。しかし質素なドレスの下は細い肢体で、彼のそれとよく似ていた。奥に入り込んで上る声も無意識に重ねていたのかもしれない。
「何考えてるんですこのムッツリ」
「痛いっ」
ケーキの皿を持つ手をつねられて漸く今の景色が目に入った。
「そんなに良かったなら今夜もまた行ったらどうです」
「行く訳ないだろ」
紅茶を啜りながらじとっとした目線を寄こす彼を見る。無意識なのか皿の上のタルトを面影が無いほど分解していた。
「タルトに罪は無いぞ…何ならお前も行って来ればいい」
「ちゃんと食べるんでお構いなく。そんなにお勧めですカ、へー」
「違うって言ってるだろ」
彼の目の前に並べられていたケーキを一つ取りあげた。
「あ、人でなし!」
「ケーキが悲惨な末路を辿ってはいかんと思ってな」
味も大事だが見た目も楽しむものだ。
「食べ物の恨みは安くありませんよ…」
「ちゃんと支払う」
「身体で?」
「それが良ければ」
古い友人との言葉遊びは、男女の駆け引きに似ているかも知れない。
「…ふ、…くっ」
四つん這いにうつ伏せた身体は細く女性的だ。
しかし女性ほど肌は柔らかくなく、筋肉質で節々の凹凸が見てとれる。取り分け意識したのは、当然ながら何よりも胸が無い事、自分と同じ性器があること。
「今日は、随分…まじまじと見てきますね…」
「あぁ、お前は随分早いな」
「うるさ…い」
背後から握った性器は普段より早く濡れて掌を汚した。
脱いだ洋服を握る彼の手が限界が近い事を伝えてくる。耳まで赤くした彼はひどく汗をかきながら苦しげに息をついた。女性ほど早く濡れる事の無いそこは慣らすのに時間が要る。滑る指先を彼の身体の中へと推し進め、少しずつ解していった。
「…痛ッ、まだ…」
「少し我慢してくれ」
きつく締まるそこは初めこそ侵入を拒むようだったが、受け入れた後は離すまいとしているかのようにも思える程だった。額に流れ始めた汗が彼の背に落ちる。白い髪の貼り付いた項にキスをすると、彼が身体を反転させた。
「ッ…眼鏡、当たるんですよ」
動いた一瞬、中を強く抉ったであろう指に顔をしかめながらそう言われた。
しなやかな腕が伸びて眼鏡を外す。
「ふふ、良い男であることは、否定できませんね」
「普段外せないのは申し訳ないな」
「この顔は、私だけのものです」
にやりと笑う顔が暗に他の誰も抱くなと訴える。無言を返事に変えて足を抱え上げた。
「舌噛むなよ」
「そんなウブじゃありま、せ…!」
余裕を浮かべていた顔が痛みに歯を食いしばる。
受ける側にとっては苦痛の一瞬だろうが、入れる側にとっては満たされる瞬間でもある。男としての征服欲が満たされる瞬間、背徳感も一蹴される。
「ぁ…くっ…!」
彼の細い身体を支える腕が筋を浮き上がらせた。
息も切れ切れな唇に同じそれを重ねて気を紛らわさせると、彼の中が少し緩み呼吸が落ち着いた。
「生きてるか?」
「生きて、ますよ…」
「全額支払うにはどれくらい必要だと思う?」
「…そうですね、じゃあ」
こちらの背中に腕を回し身を寄せた彼が囁く。
「私が死ぬほど、悦がらせること」
深夜何時ごろなのだろうか。
時間の感覚も薄れる中、繋げた身体はもう長い事ベッドに悲鳴を上げさせている。
「ぅあ、あ…、あぁ!」
普通の恋愛とは何だろう。同性の恋愛が普通でないならば、自分の下で確かに感じながら喘ぐ友人と、身体を濡らす二人分の精液は何だろうか。女性と寝たら普通になるのだろうか。でも、昨晩の彼女とは恋愛ではないし、背徳的な行為ではない。社会の常識と自分の現実の間で黒い線が揺れている。
「ザクス」
「は、…あっ」
キスをして、抱き合って、繋がって、今更恋愛などと意識したのが馬鹿だった。
女性が子供を産めるから男女なのであって。その間を結ぶのが赤い糸などと言うのは、始まりが林檎だったと言われるその名残りなだけなのかも知れない。御託を並べず、それが運命だと思えばいっそ清々しいだろう。
「こら、また、考え事…」
「まぁ。よく今までお前に付き合ってこれたなと」
「今更そんなことを」
緩く笑った彼が私の前髪を掻きあげてくしゃくしゃと髪を弄る。
「この先も、覚悟しておくことです」
「分かってる」
彼には自分の考えている事など見透かされているだろう。
余計な詮索をしない事がその証拠だ。
何度もイかせ、寸での所で止めたりとした、長い時間の刺激で敏感になった身体を奥まで攻めた。ガクガクと揺れながら時折震え、時折涙を流す姿は何時でも愛おしい。のぼせそうな熱さの中で限界がチラつき始める。彼の性器を掌に包み、上下させる速度を増した。目の前で彼の唇がきつく結ばれる。
「い、…あぁっ!」
一瞬息が詰まる。
追い詰められ開放された瞬間二人の間に白い液体がぽたぽたと滴り落ちた。
肩を大きく上下させながら自分に縋る様にしていた身体がベッドへ崩れる。その横にぼすりと倒れ目にかかった髪をよけてやった。
「あー、疲れました…」
「支払いは…完了できたか?」
「…まぁ、ギリギリオッケーとしてあげましょう」
「それは光栄なことだな」
意地悪く口元を緩ませた彼はゆっくり目蓋を下ろした。
眠りに入った身体にシーツを掛けてやり、眼鏡を探す。暗がりの中ベッドの隅に置かれていたそれを見つけ掛け直した。浴室の洗面台まで来てベタつく手を洗う。濡れた手をふきながら、ふと目の前の鏡に映った自分を見た。二人に言われた言葉を思い出し眼鏡を外してみる。少々端の上った、色素の薄い瞳がこちらを見ている。掛けている時より若干きつめの印象だ。
「……」
良い男かどうかは測りかねた。
寝室に戻り脱ぎ捨てた制服を集める。自分たちの指には赤い糸など見えない。ただ黒い糸だけは、暗闇に紛れて存在しているのかも知れないと、そう思った。
【黒い糸】
PR
- 2012/05/10(木) 13:05:20|
- レイブレ|
-
トラックバック(-) |
-
コメント:0