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- 2026/01/22(木) 07:08:32|
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*オズとギルバート
苦しくて、息が出来ないから
【夏色】
視界が霞んでいる。
と、思ったら今度はぼやけて揺れた。その原因が自分の額から滴る汗だと気づくには随分と時間が掛かった。横になっていたソファから起き上がると、ベッドの上に揺れる黒髪が見える。
「…あーあー」
着の身着のままと言った所だろうか。帰宅した「彼」が何時も通りの暑苦しいコート姿のまま突っ伏していた。自分より図体のでかい大人の弱り切った姿は、何とも悪戯心を擽るもので。
外はまだ明るい。
抜き足差し足で忍び寄りその寝顔を覗きこんだ。秀麗な眉を影が差しそうなほどに寄せて苦悶の表情を浮かべている。圧し掛かってやろうかと言う悪戯心も流石に萎えた。流石にそこまで自分は鬼じゃないし、余りにも気の毒過ぎる。
「コートくらい脱げば良いのに」
汗ばんだ彼の額を見ての一般論。仕方ないのでゆっくりとコートの襟を引っ張り、起こさぬようそっと脱がせた。だが悲しいかな、でかい図体がごそりと動きうっすらと金色の瞳が開く。
「――オズ?」
「…起きるなよ、人が苦労して脱がせたのに」
「へ?」
「はい。オヤスミー!」
「ぶっ」
ヘタレでモヤシな男が真にKYにも起きてしまったので乱暴にコートを投げつけた。唯でさえふわふわとしていた彼の脳には今の衝撃も耐えがたかったらしい。彼はそのまま後ろに倒れてフガフガともがいていた。余計な事をしてまた汗をかいてしまった。流石にベストなんぞは来ていないが、湿ったシャツが気持ち悪い。
「一旦流そ・・」
こういう時は全身水洗いに限る(オヤジじゃない。一般論だ)と、いうのは冗談だが浴室へ向かった。勿論お湯を使う。服を脱ぐとまだまだ少年の華奢な身体が鏡に映った。時代は己を25歳と言うが身体は間10年を経過していないのだから仕方ない。しっかり10年分成長した、現在ベッドでヘタレている男が恨めしくなった。
「…結局は自分の所為か」
適当にお湯を被り、髪と身体を洗い流してさっさと浴室を後にした。部屋に戻っても未だ彼の姿は無かった。完全に惰眠に戻ったのだろうか。寝室を覗くとやはりまだ横になっていた。寝顔は至って安らかで子供の頃を思い出す。思わず頬が緩みベッドの隅に腰かけ眺めていると、腰に腕が絡まった。
「ちょ、ずるッ!」
「狸寝入りをしていたつもりは無いんだがな」
どれだけ抵抗しようとも、自分より大きくて力のある大人には敵わない。ぎゃーぎゃー言いながらベッドに倒れ込み抱き枕状態にされてしまった。
「…あつい」
「風呂入ったのか?髪が濡れたままだ」
(お前に枕にされる予定が無かったら今拭いているはずだったんだ)
という内心の声を知ってか知らずか、彼はまだ釦を閉じていなかったシャツの襟を引き項にすんと顔を寄せて来た。
「おいコラ離せって」
「いくら主と言えどそれは聞けない」
さっきコートを投げつけた事を裏に含めているに違いない。
「お前が気の毒だからダイブするの止めたのに」
「…。それはどうも」
「苦しそうだったし」
「あぁ、ありがとう」
少し低くなった声が耳のすぐ後ろで響いた。彼が後ろで微笑んでいるのが気配で分かる。何故だか身体が芯から震えた。振り向きたくても振り向けないジレンマが押し寄せ、頭がのぼせる様な気がした。
「オズ、抱かせて」
「あ”!?」
「このまま寝てもいいか?」
「…もう「抱いて」るだろ。良いけど別に」
そっちかよ。一瞬でも動揺した自分が恨めしいのと同時に若干虚しくなった。腰に回された腕に力が籠るのを感じる。外の熱とは違う、心地よい人の熱がその手を通して伝わってきた。
「ギル、ちょっと苦しい」
「すまない」
くつくつと笑い零れる息を背中に受けながら、緩められた腕に自分の手を添えた。妙な息苦しさを懸命に気温の所為に転換しつつ目を閉じる。
再び囁かれた「ありがとう」の言葉と共に、夢に落ちた。
【夏色】
ほんの一瞬の最高の幸せ