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- 2026/01/22(木) 07:10:30|
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いつものように笑顔を見せる彼に不安が残る。穏やかな顔をして、反面何をしでかすか分からない性格をしているのだ。兄弟といってもそこまで読み取る事が出来ないのは自分が疎いだけなのだろうか。しかし結局その笑顔に押され、仕方なく着替える。自分で言うのは何なので、こう言おう。彼の見立ては間違っていないらしいと。
「うん、よかった。やっぱり似合うって」
「…ありがとう」
こそばゆい感覚に何だか落ち着かない。
所在なくて座ろうとした瞬間、世界は暗転した。
「おぃ…!」
後頭部を抱きかかえられるように倒れた為痛くはないが、ネクタイを思い切り引っ張られたお陰で首筋がひりひりする。抗議の声と共に圧し掛かる人物を見上げると彼はまだ微笑んでいた。他人には温かく見えるその顔も今は何故か薄ら寒い。
「そんな怖がらなくても大丈夫だってば」
首筋をなぞる指がネクタイに止まった。まさかと思い見つめる先でシュルと布の解ける音が鼓膜を打つ。この音には慣れない。自然と身体が緊張してしまう。曝された肌に彼の冷たい手が触れた。
「この音、興奮するの?」
「―ちがっ…ぅ、ん!」
唇が深く重なり呼吸の術を奪われてゆく。
「…ん、……ぁ…ヴィンス…ッ」
自分より幾分小さい身体であっても上に被さった状態では抵抗も意味を成さない。求められるままに肌を晒し、快楽を植え付けられていくのだ。
狭いアパートの天井を見上げながら息次ぐ間もなく意識は溺れて行った。
「…はな?」
詳しく言えば、桜だろうか。霞んだ目の先で窓の外を舞う花を見た。
仰向けになったままぽつりと呟くと、今度は隣で寝ていた弟が目を覚ます。ぼんやりとした目に徐々に光が差し込んだ。彼もまた花を目に留めるが、複雑な表情を浮かべただけだった。
「ギルは…卒業したらここを出る?」
「…いや、まだ決めてないが」
「近くに就職するとも限らないしね」
「出来れば近くにしたいと思ってはいる。そうしたら此処を出なくていい」
「……」
「両親が居ないから、独立してるのと変わりないしな」
「―そう、」
彼は上着を引き上げ顔まで被ってしまった。素っ気無い一言ではあった。しかし最後の一言を口にした時の表情を見ればそれはひっくり返る。嬉しさより、安堵したと言うような穏やかな顔だった。彼は真っ直ぐに自分を求めてくれる。しかし自分はまだそれを倫理的な面において本心から受け入れ切れていない。そのことに後ろめたさを感じた。
手が自然と放られた煙草へと伸びる。
自分も彼も弱い人間だ。弱いから互いに何処かで依存して離れられない。だがこれにもいつか終わりが来るだろう。その時までにまた別の区切りをつけられるようにならねばならないのは確かだ。薄っすらと上がっては消える煙を意味もなく見つめた。
「兄さん、寝よ?」
「あ、あぁ…すまん」
少し驚いた。 いつから此方を見ていたのかと言うのと、少しの罪悪感が内心を埋める。煙草を一ふかしして灰皿へ押し付けた。少しもったいない長さだったかもしれない。
「…本当の卒業は何時になるんだろうな」
【いつか見た春】
それは多分、きっともっと遠い春の話だ。